手間は掛かるが可能な限り民意を反映

ドイツ、親族の投票参加で知った独特な制度【世界から】

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投票場の様子。右から一人目の女性が寄りかかっているのが投票箱だ

 外国に居住している日本人有権者が国政選挙に参加できることはご存じだろうか。2000年6月の衆院選で初めて実施された在外投票制度だ。当初は比例代表制への投票に限定されていたが、07年からは選挙区への投票も可能となった。地方選挙は除外されているものの、自国の選挙に参加できるのは喜ばしいことだ。

 日本国籍を維持している筆者は国政選挙の度に暮らしているドイツ第2の都市で、州と同格の特別市であるハンブルク市の日本国総領事館で投票している。ブラジル出身の夫も自国の制度に従って在外投票を行っていたが、昨年の秋にドイツ国籍を取得した。今年2月下旬に行われたハンブルク市議会議員選挙で「ドイツ人としては初めて」の投票を行った。(ハンブルク在住ジャーナリスト、共同通信特約=岩本順子)

 ▽投票用紙は30ページ

 ドイツは小選挙区比例代表併用制を採用している。日本の国政選挙に当たる連邦議会選挙では、小選挙区と比例代表に1票ずつ投じる。議席は基本的に比例の得票率に応じて配分される。小選挙区の当選者数が比例で得た議席数を上回った場合はその分も議席として認められる。地方議会でも比例の得票率に応じて議席が配分されるのはおおむね同じだ。

 選挙の約1カ月前、A4サイズで50ページ近くにもなる冊子が郵送されてきた。投票用紙の見本や投票のやり方などについて記された解説書だった。

ドイツ・ハンブルク

 ハンブルク市議会の定数は最低120でこれを上回っても良い 。選挙では比例代表と小選挙区に5票ずつ投じる。比例代表の投票先は政党と候補者で、合わせて5票になるよう入れる。投票先は自由に組み合わせことができる。具体例を挙げる。「5票全てをA政党あるいはB候補者に入れる」こともできるし、「A政党に2票、B候補者に2票、C候補者に1票入れる」といったことも可能だ。

  小選挙区は候補者に5票を投じる。こちらも投票先は自由に組み合わせられるので「A候補者に5票を入れる」ことや「B候補者に2票、C候補者には3票入れる」ことができる。

 投票用紙の見本を見ると、比例代表には15の政党と348人の候補者名が掲載されている。一方、小選挙区には7政党32人の候補者名が載っている。候補者名の下には生まれ年と職業が記されている。

 結果30ページ近くにもなるので、投票用紙というより「投票冊子」といった方がしっくりくる。しかし、政党や候補者が全て印刷されているので投票はしやすそうだ。地方選挙の投票方法は州ごとで変わるが、政党や候補者の横にある空欄に「×」をチェックするスタイルはどの選挙にも共通している。日本の選挙では候補者や政党名を投票用紙に記入するので、大きく違う。

 ▽投票箱は巨大なゴミ箱

 同行できるというので、夫とともにドイツの投票所を初めて訪れた。そこは自宅近くの職業専門学校内にあるカフェテリアだった。学校の教室とほぼ同じ広さのカフェテリアの奥に、ゆったりと間隔をとって置かれた二つの机で投票する。椅子も用意しているので落ち着いて投票できる。投票用紙は自宅に届いた見本と同じだから戸惑うこともなさそうだ。

 投票用紙はかさばるだけでなく、重さもある。投票箱も高さ1メートルほどあって大きい。何かに似ていると思ったら、清掃車に回収してもらうために道路に置くゴミ箱とそっくりだ。底に車輪が付いていて運搬に便利なため採用され、ふただけを投票箱仕様にしているという。ユニークな思いつきだ。

 先述したように日本は政党名や候補者名を記入するため、字を間違えないように注意しなければならない。ドイツのようにチェックマークを入れる方式は、誰にとっても投票しやすい。

投票用紙の見本。候補者の名前がずらりと並んでいる

 ▽有権者の「ぶれ」を反映

 事前に十分な説明がされているハンブルク市議会議員選挙でも、投票の際には間違ってチェックしてしまうなどの混乱が起きている。投票方法の複雑さを原因の一つに挙げる声もある。

 集計の際のトラブルも発生している。ある選挙区では、投票済みの用紙が古紙に紛れ込んでしまった。古紙を回収した業者が発見し大部分が無事に戻ったが、18人分の投票用紙は結局見つからなかった。別の選挙区では、印刷ミスのある投票用紙が16人分あった。他にも二つの選挙区で、ある党への投票が別の党のものとしてカウントされるトラブルがあったが、間もなく修正された。

 どのような方法であれ、完璧な選挙というのは存在しないということを改めて思い知らされる。

 政党Aにはおおむね賛同できるが政党Bにも共感する部分がある―。五つの「票」を複数の政党、複数の候補者に振り分けられるこの選挙法ならば、有権者が抱くそんな「ぶれ」を一定程度、すくい上げることができる。確かに手間は掛かる。だが、民意を可能な限り正確に反映させられる方法だと感じた。