「CSR教育を従業員にする会社」は株価パフォーマンスも好調なのか

企業が成長して利益を得るには、高い技術を持って良い製品を作る必要があります。とはいえ技術を蓄えたり、優れた製品を生み出すのは、そもそも“人”です。このため会社では良質な人材、その能力を引き出す組織作りが重要です。これが「企業は人なり」と言われるゆえんで、企業は優秀な人材を育てていく必要があります。

1月20日の記事『社員研修に熱心な会社』は株価パフォーマンスも好調なのか』では、企業は人なりを実践して社員を育てる姿勢が強い会社の株価が高いことを紹介しました。今回の連載は、同じ社員教育でも一歩進んだ観点です。“従業員へのCSR教育を導入している企業”の株価について調べてみました。


「CSR教育」はなぜ重要?

CSR(シーエスアール:Corporate Social Responsibilityの頭文字)という言葉、初めて耳にする読者も少なくないでしょう。日本語では“企業の社会的責任”と呼ばれます。企業は社会に大きなインパクトを与える存在です。ですから利益を求めるだけでなく、さまざまな社会の課題に答えて、世の中が良くなるような行動をとる責任があるということです。

社会の代表的な課題と言えば地球温暖化の原因のCO2(二酸化炭素)排出です。私たちの身近でも、ゴミを減らすことで燃やすものを減らしてCO2削減したいと考える方も多いでしょう。とは言え、工場では大量な燃料を燃やします。私たち個人がいくら努力しても企業でも削減努力をしてもらわないと、CO2全体の削減はできません。

6月20日にシベリア北部の町ベルホヤンスクの気温が38℃まで上昇して、北極圏の歴史的な最高気温を記録する衝撃的な出来事が起こりました。北極圏が東京の夏と同じような暑さとは驚きですが、シベリア上空で南からの暖気が断続的に流れ込んでいることが理由とのことです。

新型コロナウイルスの影響で多くの経済活動が滞ったことから、春先には工場の稼働もストップして公害も減り空気がきれいになったというような話もありました。しかし、地球温暖化も少し後退したのではとも思いきや、構造的に温暖化の流れは進行中と考える方が多数であり、引き続き、企業のCO2削減努力が一層必要な状況になっています。

社会の課題はCO2排出だけではありません。例えば、ここのところ世界的な問題となっている差別に関する問題、廃棄物の処理に関する問題などさまざまです。これらの社会課題に対して解決に向けた姿勢を取ることがCSRを実践することになります。

ただCSRの難しい点には次のようなケースがあります。会社の企画部門で非常に基本的なルールとして“ゴミの分別”を決めたとします。しかし現場でテキトーな対応をしていたらどうでしょうか?あるいは工場で廃棄物処理の決まりを厳格にしていたとしても、現場のスタッフがゆるい対応をすることだってあるかもしれません。

別の社会課題として差別に関する問題だったら、なおさら従業員一人一人の自覚が重要となります。となると従業員に対するCSR教育はとても重要なのです。

CSR教育と株価パフォーマンスの関係

そこで実際、従業員に対するCSR教育の導入を公表している企業の株価パフォーマンスを調べてみました。

東証1部企業を対象に毎年1回、9月末時点で取得できる情報を使って、CSR報告書などの会社が公表する情報により「CSR教育を導入していることを公表している企業」と「導入していない、または導入していても公表していない企業」を分類します。そのうえで、2015年2月から2020年1月までの月次株価収益率の平均を比較しました(過去5年間)。

実は、下図のデータはちょっと工夫しています。CSR教育では、例えば外部からの講師に講演をしてもらったり、数人で集まってグループ内で社会課題に関して解決に向けた討論などが行われたりします。

そうなると金銭面や人材面でも余裕がある会社でないと、なかなかできません。確かにこういった余裕がある会社だからこそ、将来も株価が堅調となることが期待されます。しかし、それって本当にCSR教育が要因で株価に影響を与えていると言えるでしょうか。

そこで、(1)会社の大きさや、(2)株価が保有資産と比べてどの程度買われているか、(3)株式市場とどの程度連動しているか、といった3つの要因を除いて、純粋に「CSR教育を導入している」か「それ以外」かで、どの程度の株価の動きに違いが見られるかを観察しました。これは運用業界の専門家の間ではファーマフレンチ手法と呼ばれるものになります(ファーマとフレンチは学者の名前で、それらの名前からとった手法名です)。

実際の分析結果は年率ベースに直しています。つまり、年間を通じて「CSR教育を導入している」か「それ以外か」の要因で平均的にどの程度リターンとなるのか、それらの間にどの程度の差があるかを見ています。

分析結果は「CSR教育の導入を公表している企業」のリターンはプラスとなりました(0.37%)。一方、「それ以外の企業」はマイナスとなり(-0.06%)、リターンの差はプラスです(0.43%)。

「CSR教育の導入」の要因による株式パフォーマンスが良好なことがわかります。

従業員へのCSR教育を導入するにはコストがかかります。しかし、それだけ企業の社会への責任を果たす自覚を示すものです。このような企業が社会的責任を果たす努力をすることは、企業のイメージアップにもつながるし、宣伝効果もあるという研究報告もあります。
確かに、環境問題を考えない企業の製品って、本当に信用して使っていいの?っていう気持ちにもなりますよね。

CSR教育を導入していることを公表しているかどうかは、会社のウェブサイトなどで閲覧可能です。インターネットの検索を使ってそれぞれの会社のウェブサイトに記載があるかを見ることができます。

投資対象として考えている企業のウェブサイトでチェックするというのも銘柄選別で重要な観点となります。

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