犠牲者名公表、対応に差 熊本県は新指針運用 遺族同意のみ、公益性は否定

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県幹部や関係機関による豪雨災害の対策本部会議。人的被害の状況などが報告された=13日、県庁

 災害時の死者や行方不明者の氏名公表に関し、熊本県は今回の豪雨災害から新たな指針を運用している。死者は「公益上の必要性がある場合か、遺族の同意がある場合」が公表の対象だが、県は今回、公益性を否定して遺族が同意した場合のみ氏名を公表している。自治体によっては「原則、公表」のところもあり、識者は氏名公表には公益性があるとした上で「匿名では検証が難しくなる」と指摘する。

 県の指針は、「公益上の必要性」について▽大規模災害で非公表だと被災地で大きな混乱や二次被害の恐れがある場合▽公的機関の要職にあるなど、社会的な影響力の高い人物▽安否確認の問い合わせが膨大で、災害対応に支障が出る場合-を挙げる。

 いずれかに当てはまれば、遺族の同意の有無にかかわらず死者の氏名を公表する運用だが、県危機管理防災課は「今回は、東日本大震災のように安否情報が錯綜[さくそう]し、混乱している状況ではない」として「公益性はない」との立場をとる。ただ、蒲島郁夫知事は公益性の定義が分かりづらいとして改めて記者会見で定義を明確にする方針だ。13日までの県の発表では、死者64人のうち、身元や遺族の同意を確認中の7人を除く57人について氏名を公表した。

 災害犠牲者の氏名公表を巡っては、2018年の西日本豪雨や19年の台風19号の際、実名か匿名かで自治体の対応が分かれた。全国知事会は国に統一基準を示すよう求めているが、政府は「災害の状況や被災者の事情によって判断すべきだ」と応じていない。このため、熊本県など各地で暫定的な指針を策定する動きが広がる。

 しかし、遺族の同意を前提とするか否かの対応は、まちまちだ。全国知事会の都道府県調査(19年11月~20年1月)では、40自治体が公表要件に「遺族の同意」を挙げる一方、福岡県は遺族の同意がなくても「実名公表」とする対応で担当者は「死者は個人情報保護条例の対象外のため」と理由を話す。神奈川県も3月、遺族の意向にかかわらず原則公表する方針を示した。

 新潟大の鈴木正朝教授(情報法)は「遺族の同意がないことを非公表の理由にする法的根拠はなく、憲法に基づく国民の『知る権利』を制限するのはおかしい。遺族への配慮は、報道の表現や取材手法でなされるべきだ」と強調。「公表基準は国が法律を定めて統一的に対応する必要がある」と指摘する。

 静岡大の牛山素行教授(災害情報学)は公表の必要性を認めた上で「メディアスクラムのイメージもあり、犠牲者の匿名化に社会的な一定の支持があることは確か。後世の教訓につながるような報道に生かされていると感じられれば、社会的な理解も得られるのではないか」と話している。(野方信助、内田裕之)