【データ】“走らない”川崎Fが「4-3-3」で進化 “走る”横浜FM、連覇の壁は過密日程か

ついに再開された明治安田生命Jリーグ。

7月10日からは「有観客」も解禁され、待ちかねた多くのサポーターがスタジアムを訪れ、拍手などでチームを後押しした。

最高峰のJ1は7月4日から3節が開催。2月に行われた開幕節を含め4節を消化した時点で、川崎フロンターレが3勝1分で首位に立った。

再開初戦の鹿島アントラーズ戦(2-1)こそ判定にも恵まれた試合だったが、その後のFC東京戦(4-0)、柏レイソル戦(3-1)は快勝。唯一のリーグ再開後3連勝を飾っている。

川崎といえば、卓越したボール保持力を武器に2017、2018シーズンとJ1連覇を達成。中村憲剛、小林悠、家長昭博と3人のJリーグMVPを擁する強豪だ。

そして彼らのサッカーには、データ的に大きな特徴がある。

それは「走らないこと」だ。

「走らないのに強い」川崎フロンターレ

Jリーグが公開しているトラッキングデータの一つ【走行距離】。こちらで川崎が過去5シーズンに記録した1試合平均の走行距離を見てみると…。

■川崎 過去5シーズン走行距離

2015年 110.131km(16位/年間6位)

2016年 109.668km(15位/年間3位)

2017年 109.072km(17位/優勝)

2018年 107.323km(18位/優勝)

2019年 108.747km(18位/4位)

近年、常に上位に名を連ねている川崎だが、走行距離では意外にも安定して下位。2018シーズンに至っては「一番走らなかったチーム」であったにもかかわらず頂点に輝いたのである。

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J1の2018シーズン年間最優秀ゴール賞を受賞したこの大島僚太のゴールを持ち出すまでもなく、川崎は人よりもボールが走ることを重視している。

風間八宏前監督が植え付けたスタイルはチームの中で力強く根を張り、2017年に就任した鬼木達監督のもとで見事な果実を咲かせた。

ところが、3連覇を目指した2019シーズンは相手チームによる研究が進んだこともあってか勝点を伸ばせず。攻撃が停滞して勝ちきれない試合が目立ち、リーグ最少の6敗だったにもかかわらず12の引き分けを記録し、4位に終わっていた。

そんな川崎フロンターレが2020シーズンに取り組んでいるのが新システムだ。

昨季までの4-2-3-1から4-3-3へフォーメーションを変更。得意のポゼッションで前に人数をかけつつ、ボールを奪われた瞬間から相手に襲いかかる攻撃的な守備に磨きをかけ、今季ここまで公式戦で4勝1分、14得点3失点と強さを見せている。

驚くべき点は、相変わらず「走っていない」ことだ。以下は4節終了時点での1試合平均の走行距離ランキング。

■J1 2020シーズン走行距離

1 119.298km 横浜FM

2 117.608km 湘南

3 117.514km 名古屋

4 117.386km 大分

5 117.352km 鳥栖

6 116.166km 横浜FC

7 115.434km G大阪

8 114.599km C大阪

9 114.147km 浦和

10 113.489km 仙台

11 113.083km 札幌

12 112.341km 広島

13 111.560km 神戸

14 111.205km 清水

15 110.027km 鹿島

16 108.940km 柏

17 108.303km 川崎F

18 107.142km FC東京

今季は前線のレアンドロ・ダミアンや家長昭博、長谷川竜也が相手を追い回すさまが印象的な川崎。

さぞ運動量が増えているのではと思いきや、走行距離は108.303kmとFC東京に次ぐ下から2番目。なんと昨季(108.747km)よりも走っていないのだ。これは驚き!

理由として、新フォーメーションの4-3-3はピッチ上に選手をバランス良く配置できることが挙げられる。奪われても近くの選手がすぐにプレッシャーをかけられるため、ミスを誘うなどでボールを素早く回収できている。

その分、3人しかいない中盤は対応が非常に難しいのだが、このポジションは川崎の強みの一つ。大島僚太、田中碧、脇坂泰斗、守田英正、下田北斗、そして大怪我からの復帰が近い中村憲剛と、それぞれ特長を持ち攻守に働ける実力者が顔を揃えている。

そんな強みを生かし、プレーの強度を上げて得点機会を増やしつつ、選手の身体的負担を抑える。川崎は今のところそれが両立できている。

とはいえ、過密日程はこれからが本番であり、新システムへの慣れも選手によってマチマチ。4節の柏戦、初めてアンカーに入った守田が試合が進むにつれて“立ち振る舞い”を身につけていったように、チーム全体で熟練度を高めていくことがリーグタイトル奪還の条件となる。

「走る」がベースの横浜F・マリノス

一方、2019シーズンのJ1を制した横浜F・マリノスは、川崎とは対象的にリーグで一番走るチームだ。

両チームともボールを保持する攻撃的なフットボールを標榜しているが、技術がベースの川崎に対して横浜FMは運動量がベースとなっている点が面白い。

今シーズンも4節終了時点で119.298kmはリーグ1位。各試合の走行距離は以下のようになっている。

■横浜FM 2020シーズン走行距離

1節 117.612km(vsG大阪/●0-1)

2節 122.517km(vs浦和/△0-0)

3節 122.663km(vs湘南/○3-2)

4節 114.399km(vsFC東京/●1-3)

横浜FMが3節の湘南ベルマーレ戦と2節の浦和レッズ戦で記録した走行距離は、J1第4節までの全試合・全チームにおけるトップ2。

特に湘南戦は、相手も121.867kmを記録する、総力戦ならぬ“走力戦”となった。

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この試合で横浜FMは3-2の逆転勝利を収めたものの、チームの疲労度は大きかったはず。中3日で臨んだ直後のFC東京戦、先発7人を入れ替えた結果チーム全体としてプレーの精度を欠き、1-3の敗戦を喫したことはその影響があったことをうかがわせる。

精力的な補強により昨年に比べて選手層が厚くなったとはいえ、出場メンバーによるクオリティの差は現状否めない。未曽有の過密日程となる今季、横浜FMはターンオーバーをしながら試合ごとのパフォーマンスをいかに安定させていくかがリーグ連覇の鍵となることは間違いない。

アンジェ・ポステコグルー監督の横浜FMに関してはこんなデータもある。

横浜FMが昨季、「中4日以上」と「中3日以内」で臨んだ公式戦の成績はそれぞれ以下の通りだ。

■横浜FM 2019シーズン試合間隔

  • 中4日以上 20勝2分6敗(勝率71.4%)
  • 中3日以内 6勝4分5敗(勝率40%)

一目瞭然、ミッドウィークに試合を挟むと勝率が大きく下がってしまっていたのである。

「中3日以内」の試合はYBCルヴァンカップを戦っていたシーズン序盤が多く、まだチームの完成度が低かったが故と見ることもできる。

しかし、中盤戦以降に行われた天皇杯直後の3試合でも、7月3日のホーム大分戦が1-0(中2日)、8月17日のホームC大阪戦が1-2(中2日)、9月28日のアウェイ仙台戦が1-1(中2日)という成績。

仙台戦のあと、リーグ戦1本となってから7戦全勝で逆転優勝を果たしたことを考えても、現在の横浜FMは試合間隔に余裕があったほうが相手に対して優位に立ちやすいチームと言えるかもしれない。

走るポゼッションサッカーで連覇を目指す彼らにとって、過密日程はやはり気になるところだ。

別のベクトルで「走っていない」セレッソ大阪

最後に、Jリーグが公開している主要なトラッキングデータのもう一つ、【スプリント回数】のランキングも見てみよう。

これは出場選手が時速24km以上で走った回数の1試合平均。括弧内は参考までに昨季のデータだ(※柏と横浜FCは昇格組のため無し)。

■J1 2020シーズン・スプリント回数

1 208(172) 湘南

2 188(193) 横浜FM

3 176(149) 浦和

3 176(156) 鳥栖

5 175(176) FC東京

6 168(161) 札幌

7 167(162) 神戸

8 164(170) G大阪

9 163(166) 鹿島

9 163(-) 柏

9 163(145) 川崎F

12 162(-)横浜FC

12 162(161) 大分

14 161(158) 仙台

15 155(147) 名古屋

16 154(153) 広島

17 152(153) 清水

18 130(137) C大阪

監督交代などによっても変化が出てくるデータだが、今回取り上げた川崎、さらに昨季途中から現在の監督が指揮を執る湘南や浦和、鳥栖が顕著な伸びを見せている。

一方、体制が継続しているチームは変化なし、あるいは戦術の熟成もあってか減っているケースが多い。

その中でも面白いのは、今季唯一開幕3連勝を達成したセレッソ大阪だろう。1試合平均130回は、17位の清水より20回以上も少ないダントツの最下位。走行距離でも8位と真ん中あたりにつけており、データ的に過密日程向けの戦い方をしているチームの一つと言えそうだ。

「先制されたら勝てない」という明確な課題こそあるが、昨季J1最少失点で5位に入ったミゲル・アンヘル・ロティーナ監督率いるチームは今季も注目の存在だろう。

というわけで、まだ4節が終わったばかりではあるが、トラッキングデータを見ながら気になったチームをお届けした。

Jリーグは7月1日、Jリーグ競技パフォーマンスデータの呼称を「J STATS」とすることを発表。

ファン・サポーターやサッカーに関係する多くの人々に、データをより身近に、親しみやすいものになるよう、またデータによる新しいサッカーの楽しみ方の提供や日本サッカーの強化・育成・普及への貢献を目指し、改めて名称が付けられたという。

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各種データはJリーグ公式の「成績・データ」で誰でも見ることができる。

トラッキングデータは試合終了の2時間後にはだいたい更新されているので、スタジアムやDAZNで観戦したあと、ぜひデータ的な面でも自分なりの見方でJリーグを楽しんでみてほしい。

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