県内初のクラスター

 単に「目に映らない」というよりも「えたいが知れなくて、こちらを不安にさせる相手」という意味合いが強い。だから「見えない敵」という言葉は感染症の類いによく用いられる-と1月末の小欄に書いた。その頃、中国本土で新型コロナウイルス感染が広がっていた▲中国からクルーズ船が数多く入る本県では、観光への打撃を心配する声が上がった。それから半年、見えない敵への警戒はいっそう強まっている▲長崎市の長崎みなとメディカルセンターで、新型コロナのクラスター(感染者集団)が県内で初めて発生した。13日までに8人が陽性で、病院外でも感染が確認されている▲自分にうつっていないか、と通院する人たちに不安の声が広がる。センターの一般診療に支障はないか、と案じる声が上がる。観光地長崎をしんとさせたコロナ禍はいま、地域社会をざわつかせている▲院内クラスターと聞いて、医療に携わる人への中傷、差別が県外であったのを思い出す。心無い言葉を浴びせ掛けられ、家族が出社や登校を拒まれた▲見えない敵は怖いが、人のやることも怖い。そんな嘆き声があってはいけない。地域の医療体制を守るため病院同士が協力する、PCR検査の幅を広げて不安を少しでも払う-と、人がすべきは手を携えることをおいて他にない。(徹)


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