2021年度入試、共通テストの受験日程を自己採点集計のスケジュールから考える

2020年6月19日、文部科学省は例年より約2週間遅れて「大学入学者選抜実施要項」を公表しました。この実施要項は通知であるため法的拘束力はありませんが、入試実施の基本原則が示されており大学は通知の内容を義務として受け止めています。実施要項では、大学入学共通テストの本試験が2回実施されることや特例追試験を含めると現役生には3回の受験日程が設定されていることが示されています。これを受けて、受験のプロと言われる方々からは、「どの日程で受験するのが最も有利になるのか」について様々な発信がなされています。共通テストの受験日程について受験生はどのように考えれば良いのでしょうか。

意志決定に本当に必要な入試日程情報は?

共通テストの受験日程を考えるため、「大学入学者選抜実施要項」で公表された入試日程と国立大学協会などから公表されている資料を合わせて、昨年度入試との日程比較表を整理しました。

[(https://univ-journal.jp/column/202042562/schedule650c/)

周知の通り今年の共通テストの本試験は2週間の間隔を空けて2回実施されます。高卒生は①1月16日(土)、17日(日)「第1日程」のみの受験となりますが、現役生は追・再試験用の問題を使用する②1月30日(土)、31日(日)「第2日程」の選択もできます。追・再試験の方が問題が難しいという説もありますが、大学入試センターは、例年、本試験と追・再試験の問題難易度は等しいと説明しています。実際に本試験と追試験の問題難度を検証するために、難関国立大学の学生モニターに両方の試験を受けてもらい、問題難度の検証を行っていることは入試に携わる者の中ではよく知られた事実です。ただ、テスト理論の観点からは平均点が同じでも分散が異なれば必ずしも均質とは言えないという見解もありますので、完全に同じとは言い切れないところもあります。

どちらの日程で受験するのが有利なのかについて、各メディアでは受験のプロと言われている方々がコメントをしています。それらを見ると第1日程を推す意見が多く見られます。ただ、第2日程を推す意見も見られ、その主な理由は、初めて行われる大学入学共通テストの出題傾向を見極めてから、2週間かけて準備をした方が得点を取りやすいという内容です。確かに文系生にとっての数学、理科、理系生にとっての地歴公民(生徒によっては国語も)については的を射ていると言えるでしょう。

そのため、共通テストの配点が高く、個別試験の科目数が少ない地方国立大学を目標としている受験生にとっては第2日程の方が有利にも見えます。ただし、難関国立大学を目標としている受験生は、第2日程で共通テストを受験して仮に高得点が得られても、ここで個別試験対策が2週間も遅れる方がデメリットになるでしょう。このようにどちらの日程を選んでもメリットとデメリットがありますが、意志決定のためには、国公立大学の出願期間と民間事業者による共通テストの自己採点集計スケジュールをよく考える必要があります。

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例年の自己採点集計では予想ボーダーラインは本試験の3日後に公開される

国立大学協会が7月13日に公表した変更後の個別試験の出願期間は、1月25日(月)から2月5日(金)となっています。共通テストの「第2日程」の設定を受けて出願期間が2日間延長されました。せめて2月8日(月)まで延長して欲しいところですが、個別試験の実施準備などを大学の立場で考えるとやむを得ないと言えます。「第2日程」受験者は共通テストを受験してから出願締め切りまで、5日間の検討期間が取れることになりましたが、自己採点の結果によって出願校を変更する場合などには本当はもう少し時間が必要です。

なお、共通テストの特例追試験受験者は、2月13日(土)、14日(日)の受験後に出願期間が設けられることになり、2月15日(月)から2月18日(木)となっています。各大学の志願倍率などがある程度判明した後の出願ですので、高倍率の大学を避けることができ、この点では有利です。ただ、試験を受ける前に共通テストの自己採点集計分析による各大学の予想ボーダーラインがすでに公表されている可能性が高いため、受験生は目標が立てやすいとは言え、プレッシャーも大きいでしょう。

その自己採点集計スケジュールですが、例年では本試験翌日の月曜日から集計が始まります。そして、その集計データを基にした各大学の予想ボーダーラインが公表されるのは、本試験から3日後の水曜日です。今年は本試験が2回実施されるため、自己採点集計スケジュールがどうなるか気になるところです。

自己採点集計は「第1日程」で実施され、「第2日程」では実施されない?

現在、全国的な規模で行われる共通テストの自己採点集計は2つしかありません。河合塾によるセンターリサーチとベネッセコーポレーションによるデータネットです(データネットは駿台予備学校と共催)。現段階では両者とも自己採点集計のスケジュールを発表していませんが、自己採点集計は「第1日程」後に実施して、「第2日程」後の自己採点集計は行われないと思われます。それは大半の受験生は「第1日程」を選択すると予想されるためです。

6月に公表された文部科学省の調査では。約70%の高校が当初予定されていた通りの日程で入試実施を希望していました。つまり70%以上の受験生は「第1日程」で受験し、「第2日程」で受験する受験生は約30%と考えることができます。この比率をそのまま当てはめると「第2日程」の受験者数は約15万人と見込まれますが、実際にはもっと少なくなるでしょう。難関大志望者には前述のようなデメリットもあり、また、多くの受験生にとっても予想ボーダーラインが公表された後の受験となることは、かえってプレッシャーとなることも考えられます。

加えて、私大入試直前の時期にもあたります。文部科学省は、受験生に対してどちらの日程で受験するのか、希望者数を7月1日から調査しています。そのため、7月中には大勢が判明しますが、大半の受験生は「第1日程」を選択すると予想されることから、共通テストの自己採点集計も「第1日程」後の1回のみの実施となりそうです。こうした自己採点集計のスケジュールから見ても「第1日程」受験の方が良さそうです。

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「第2日程」の受験者が特例追試験を受験すると私立大共通テスト方式は合否判定の対象外?

ところで、「第2日程」での受験を予定していて、何らの理由で追試験を受験することになった場合には、特例追試験(2月13日、14日)を受験することになります。しかし、私立大の共通テストを利用した入試方式の多くは、例年2月10日(水)前後に合格発表が行われます。今年の場合は、「第2日程」が設定されたため、大学入試センターから各大学への共通テストの成績提供が当初予定の2月2日(火)よりも遅れて、2月8日(月)以降となりました。そのため、私立大の共通テスト利用方式の合格発表も数日遅れる見込みですが、特例追試験を受験した受験生の成績が大学入試センターから各大学へ提供される2月18日(木)よりも前に合格発表になると予想されます。その場合、仮に受験生が私立大の共通テスト利用方式に出願していても、合否判定の際には共通テストの成績が存在しないため、合否判定の対象にはできません。

こうした事例の対象者は少ないと考えられますが、果たして救済されるのでしょうか。文科省の実施要項では、特例追試験の受験者が「共通テストを利用する選抜に出願できるよう配慮する」と記されていますが、対応は各大学に任されます。私立大の共通テスト利用方式の出願は、共通テスト前日に締め切られるパターンが多いため、出願は担保されますが、合否判定については現段階では不透明です。こうして考えていくと共通テストの受験は「第1日程」を選択することがリスクを最小化することになると言えそうです。受験のプロの方々が「第1日程」受験を推すのはこのような理由もあるのです。

ところで、特例追試験の問題は、従来のセンター試験の緊急対応用の問題である通称「第3セット」がベースになります。つまり、共通テストで予想されている新傾向の問題ではなく、従来型の問題です。そのため、共通テストよりも高得点が望めそうなのですが、そのほかのリスクを考えると意図的に特例追試験の受験を目指すことはとてもお勧めできません。

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