旅行に行きなさい

 「動詞」で始まるのは命令形。初歩の英文法だ。だから、直訳すると〈旅行に行きなさい〉。観光旅行はいつから政府に命じられて出掛けるものになったのか、と揚げ足の一つも取りたくなる。「Let’s」でも「Shall we」でもない旅へのいざないに、延期や再考を求める声が広がる▲旅行代金が実質半額-魅力的な大盤振る舞いには違いない。だが、新型コロナの収束が見通せないどころか、再燃の兆しさえ指摘される今は、その旗を振るタイミングとは思えない▲「アクセルとブレーキを一緒に踏むような…」は控えめな反論の部類だろう。「ここで感染拡大が起きたら人災」「Go To トラブル」と率直な発言をいくつも目にした▲「観光県」に暮らす私たちはどうだろう。遠来の客をこれまでと同様に歓迎できるだろうか。旅人に「どちらから」と尋ねる声に警戒心が交じりはしないか▲「急ぎの文(ふみ)は静かに書け」という言葉がある。急ぎの手紙は大切な用件のことが多いから、誤りのないよう落ち着いた気持ちで書きなさい-と拙速を戒める警句だ▲急ごしらえの命令口調のキャンペーン。とても熟慮の産物には見えない。国内に二つある旅行業協会、片方の会長を務めるのは自民党の大幹部と聞く。ああ、なるほど…余分な想像が膨らむ。(智)


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