熊本豪雨で産科被災 出産に不安 受け入れ難で医師ら苦悩

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豪雨で水没した患者のカルテを1枚1枚タオルで拭く河野産婦人科の看護師=人吉市
浸水した愛甲産婦人科麻酔科医院の1階部分。患者データが入っているパソコンも水没した=4日、人吉市(同医院提供)

 熊本県南部を中心とした豪雨災害で、人吉球磨地域に二つしかない産婦人科医院が大きな被害を受け、再開の見通しが立っていない。通常は高度な医療が必要な妊婦を中心に診療している人吉医療センターの産婦人科が、多くの妊婦を受け入れざるを得ない状況で、危機感が高まっている。

 人吉市駒井田町の愛甲産婦人科麻酔科医院は、球磨川と支流の山田川の氾濫で1・8メートルの高さまで浸水した。新生児2人と母親2人、妊婦3人が入院していた2階より上に被害はなかったが、停電が発生。看護師らが暗闇の中、手探りで1階にあった機材を2階に運んだ。

 当直勤務だった看護師の田中美津子さん(60)は「不安そうなお母さんたちに、大丈夫ですよと声を掛けて励まし続けた」と振り返る。水が引き始めたのを見計らい、妊婦を救急車で、生後4日の新生児と母親は看護師の車で、がれきや土砂を踏み越えながら同センターに運んだという。

 看護師らが連日復旧作業に汗を流すが、愛甲啓院長(42)は「1階部分の復旧には時間を要する。2階以上を使うなどして何とか早く再開したい」。

 同市上薩摩瀬町の河野産婦人科も1階が浸水して変電設備が被災したため、今も停電が続く。入院していた新生児を含む3人は、豪雨の2日後まで病院にとどまり、看護師らがカセットこんろで沸かしたお湯でタオルを温め、新生児の体を拭いてしのいだ。

 河野國武理事長(78)は「電気が来ないので復旧が進まず、先を見通せない」と悔しさをにじませる。

 人吉球磨地域では産婦人科医院の閉鎖がここ数年で相次ぎ、現在はこの2施設のみ。年間分娩[ぶんべん]数は、愛甲産婦人科麻酔科医院が500~600件、河野産婦人科が170~200件。鹿児島県伊佐市や宮崎県小林市などの妊婦もおり、休診が長引けば影響は大きい。

 「県助産師会などの応援をセンターに投入し、何とかしのいでいるが、産婦人科以外にも患者が集中している」と人吉市医師会災害対策本部の山田和彦本部長(72)。「早く安心できる地域医療体制を回復させたいのだが…」と苦悩する。(立石真一)