カンヌもハリウッドも制覇! マ・ドンソクの新たな魅力が全開のバイオレンス・アクション『悪人伝』

『悪人伝』© 2019 KIWI MEDIA GROUP & B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.

カンヌで好評を博した『悪人伝』、いよいよ日本公開!

2019年5月、マ・ドンソクのインタビュー@第72回カンヌ国際映画祭が本サイトを賑わしたのを、ご記憶の方も多いかと思う。カンヌのミッドナイト・スクリーニング部門正式上映作品として『悪人伝』が選ばれ、マ・ドンソクがゲストとして招待された時のものだ。カンヌの浜辺に張り出したテラスで、白いソファーに座って取材を受けるマ・ドンソクの写真からは、緊張感と気恥ずかしさが伝わってきたが、『悪人伝』は上映されるやいなや、カンヌの観客を熱狂の渦に巻き込んだという。

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さらにこのインタビューで、マ・ドンソクは『悪人伝』がハリウッドでリメイクされることを嬉しそうに報告している。ハリウッド版でも自分が主演、しかもかのシルヴェスター・スタローンが製作プロデューサーを務めるというのだから、マ・ドンソクが喜ぶのも当たり前だ。マ・ドンソクが俳優を目指すことになったのは、スタローンの『ロッキー』(1976年)を見たのがきっかけだそうで、その意味でも無上の喜びだったに違いない。

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『悪人伝』はカンヌでの上映後韓国で公開され、336万人を動員して年間第8位のヒットを記録。また、東京国際映画祭の「東京国際ファンタスティック映画祭ナイト」でも上映され、そしていよいよというかやっとというか、2020年7月17日(金)から日本公開されることになった。ここ数年、マ・ドンソクの主演作は引きも切らずで、刑事、教師、アームレスリングの選手、愛妻家の水産業者等々、様々な役をこなしてきた。振れ幅はあったものの、おおむね「正義の人」だったのだが、『悪人伝』ではタイトル通りの悪人、ヤクザの親分役である。一体、どんな映画になっているのだろうか。

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地方都市にうごめく闇の中の男たち

舞台になっているのは忠清南道(チュンチョンナムド)の町、天安(チョナン)市。ソウルから地下鉄1号線が通じているチョナン市は、各停だと2時間ほどかかるものの、ソウルの衛星都市と言ってもいいだろう。ソウルを縮小してちょっと田舎っぽくしたような、そんな町である。当然裏社会もはびこり、カジノを経営するチャン・ドンス(マ・ドンソク)ら数人のヤクザの幹部が、利権にむらがりチョナン市を牛耳っていた。

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そんな中、2005年8月のある夜、郊外を走る幹線道路で殺人事件が起きる。発端は追突事故で、追突されて車を停め、舌打ちしつつ降りてきた運転者の男が、追突してきた白い車の男(キム・ソンギュ)にめった刺しにされて殺されたのだ。一夜明けて発見されたのは、被害者の死体とそれを乗せた車だけだったため、警察の捜査は難航する。傍若無人な行動で上司からはにらまれ、同僚や後輩からも敬遠されている刑事チョン・テソク(キム・ムヨル)は、以前に起きた2件に続く連続殺人事件だと主張するが、当然聞き入れてもらえない。

ところが今度は、強面で知られるヤクザのドンスがたまたま一人で車を走らせていた時に、同じ手口で襲われる。犯人の誤算はドンスが“強すぎた”ことで、油断していて最初は刺されたものの、深手にもかかわらずドンスは犯人と格闘し、相手に傷を負わせる。結局犯人には逃げられるが、一命を取り留めたドンスは、そのやり方にヤクザ臭がないことに気づき、犯人を捕えるべく独自に動き出す。それを耳にした刑事テソクはドンスを説得、一緒に犯人を捜すことを提案し、ドンスも警察と連携すれば科学捜査等を利用できると考えて、手を結ぶことにするが……。

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3人の悪人、テッペンは誰だ!?

本作の英題は『THE GANGSTER, THE COP, THE DEVIL』。ヤクザと刑事はそのまま訳されているが、犯人は「KILLER(殺人者)」ではなく「悪魔」と表現され、非人間的な存在を示唆している。人を刺し殺すことに快感を覚え、一定期間が過ぎると禁断症状が出て、また殺人を犯さずにはいられない悪魔のような犯人。サイコパス的な不気味さをまとった犯人を演じているのは、やはりマ・ドンソクが主演した『犯罪都市』(2017年)で、朝鮮族ヤクザであるユン・ゲサンの手下役を演じたキム・ソンギュだ。あの時も不気味な役だったが、今回の犯人役も、パーカーをまとった姿を現すだけでゾッとさせられてしまう。

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一方、すぐにブチ切れる自分勝手な刑事テソクの、鋭いナイフのようなヒリヒリ感を表現するのは、『代立軍 ウォリアーズ・オブ・ドーン』(2017年)のキム・ムヨル。これまで何本か主演作もありながら、ミュージカル俳優としてのスマートなイメージが強いせいか、いまひとつ映画俳優としてはブレイク未満の俳優だ。だが本作では、図太さを全面に押し出すために屈強な肉体を作り上げるなどして、別人のような顔を見せる。柄の悪さも相当なもので、マ・ドンソクに一歩も引けを取らないワル刑事ぶりだ。

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そして、われらがマ・ドンソク兄貴のドンスは、りゅうとした背広に身を包み、一見落ち着いた大人のように見えながら、裏切者や無礼をはたらく者には情け容赦のない制裁を加える。時には目を背けたくなるシーンもあり、非情なヤクザぶりをいつもの顔で演じているのがなんともコワい。「俺を怒らせたヤツは、誰であろうが責任を取らせる。ヤクザはメンツが大事だ」という言葉通り、自分の敵となる人間はすべて殲滅し、殺人犯に対してもそれを貫くドンス。やはり群を抜く、うまさと存在感である。これはカンヌが熱狂するはずだ。

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カー・チェイスや“ほのぼのシーン”など見どころ満載!

監督・脚本は、テレビ畑出身で、映画はこれが2作目のイ・ウォンテ。後半、ちょっと「?」な展開もあるのだが、マ・ドンソクら出演者の持ち味を巧みに生かし、それぞれに見せ場を作っていて飽きさせない。加えて、アクションシーンの設計がいずれもうまく、殺人現場シーンから始まって、ドンスが見せる様々な瞬間的アクションシーン、さらにはドンスが倉庫内に作ったプライベートな捜査本部が襲われるシーンや、ラスト近くでドンスとテソクが犯人を追いかけるカーチェイスシーン等々、リアルで見応えのあるシーンが満載されている。アクション監督は、『アシュラ』(2016年)や『捜査された都市』(2017年)などを担当したチェ・ボンロク(ボンノク)で、3人の悪人たちのキャラクターに合うように、それぞれの場面で個性的なアクションシーンを設計したという。

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さらにファンサービスなのか、マ・ドンソクにはいつもの彼を思わせる、心和むシーンも用意されている。非情なヤクザの親分から、一瞬『守護教師』(2018年)にワープしたのかと思うようなそのシーンは、その後に悲惨な出来事が待っているだけに、とても印象に残る。

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3度目に見ていて発見したのだが、ドラマ『梨泰院クラス』(2020年)の会長役、ユ・ジェミョンも出演している。どこに? それは、ご覧になってのお楽しみ。

文:松岡環

『悪人伝』は2020年7月17日(金)より全国公開

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