異例の増刷決定!稲垣啓太の“笑わない”ポスター「実現不可能かと…」今だから語れる制作秘話

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「熊谷のみんなには笑っていてほしい」。あの“笑わない男”が、無表情でそう呼びかけるポスターが話題になったのは記憶に新しいが、その制作の裏には、ちょっといいお話があった。

埼玉県熊谷市に本拠地移転を表明しているラグビーの「パナソニック ワイルドナイツ」。そのスター選手である日本代表の稲垣啓太選手を起用したこのポスターは、 新型コロナウイルスによる打撃を受けた市内の事業者を応援し、地元経済の景気回復をはかる目的で、埼玉県熊谷市の商工会議所が中心となって制作した。

6月末にB1サイズ200枚とB2サイズ2000枚を制作、熊谷駅構内や市内の商店、公共施設などに貼り出されたが、発表直後から話題を呼び、 SNS上では「#ガッキーと笑おう」のハッシュタグを付けたツイート活動が熊谷市民の間で広がった。すると追加で貼り出しを希望する声が殺到し、小中学校などにも配布するためにB1サイズを100枚増刷。異例の事態だという。

熊谷駅構内の壁にずらりと並ぶポスター

シンプルかつ、斬新なデザインのポスター。“笑わない男”が“笑って”と呼びかけるアイディアは、どのように生まれ、どういった思いで制作されたのか。フジテレビュー!!は、制作を担当した熊谷商工会議所専務理事・田島清さんと、デザインを生み出した熊谷(くまがい)明美さんに話を聞いた。

稲垣さんが“笑って”と言う…「ダメ元の提案」だった!

──今回のポスターの反響はいかがですか?

熊谷さん:最初はすごく嬉しくて、感動していたのですが、段々と、自分の力以上の話題になっていったように思います。やっぱり稲垣選手の影響力というものはすごいなと感じました。

──そもそも、「ポスターで熊谷市を盛り上げる」という構想はどこから生まれたものですか?

田島さん:商工会議所としては、飲食店のテイクアウト営業を応援する「テイクマ」というアプリをリリースするなど、これまでにもいろいろな取り組みをしてきました。ようやく外出自粛や休業要請が解かれて、ここからまた盛り上げていきたいとなった時に、金銭的な支援はすでに各所からされているので、そういった直接的な応援ではなく、雰囲気づくりから始めるべきだと思い、ポスター制作に至ったのです。

ラグビーワールドカップ開催時もすごく盛り上がりましたし、1月までは「パナソニック ワイルドナイツ」の試合も熊谷ラグビー場で行われていて、その時にもすごい数の人が集まりまして。「熊谷にこんなにも人が集まるのか」と感じました。街としての盛り上がりがすごく自信になったのです。しかし直後にコロナの打撃を受け…。もう一度自信を取り戻す出発点に立ち、このポスターが起爆剤のようなものになればと思いました。

熊谷商工会議所。入ってすぐポスターが!

──稲垣選手の起用は、熊谷さんが発案されたのですか?

熊谷さん:はい。いくつかデザインの候補を挙げた中の一つです。「稲垣選手が笑って欲しいと言ったら、きっと見てくださった方に届くかな」という思いで、まさか通るとは思わずダメ元で提案したのですが…。

田島さん:元々、稲垣選手の所属するパナソニック ワイルドナイツとのお付き合いはあったのです。これまでにも、試合のチケットを熊谷商工会議所で販売させていただいたり。そういうこともあり、我々が何か興(おこ)すのであれば、ワイルドナイツの選手に協力していただきたいという気持ちはずっとありました。

そこへ、熊谷さんがタイミングよくアイディアを出してくれたので、「これは、やらない手はない!」と。熊谷さんが作ってくれた「熊谷のみんなには笑っていて欲しい」というキャッチコピーも「これしかない!」と思いましたね。見た瞬間からピンとくるものがあり、「このアイディア、何としてでも通さなくては」と思いました。

ワイルドナイツ担当者は賛同も「稲垣選手はどうかな…」

──稲垣選手へのオファーはスムーズにいきましたか?

田島さん:いえ、やはりとても有名で人気があり、メディアに引っ張りだこな方なので、一筋縄ではとても…。ワイルドナイツの担当者も「すごくいいですね!…でも…稲垣選手はどうかな…」という反応でしたので、実現不可能だろうという諦めの気持ちも、正直なところありました。

ですが、こちらの提案を受け、ワイルドナイツさんもこの趣旨に理解を示してくださって。何より、稲垣選手が理解してくださったことが大きかったようです。最終的には稲垣選手が頷いてくださらなければ、実現しないことなので。

熊谷さん:「通ったらすごいな」くらいの気持ちだったので、実現すると聞いたときはとても驚きました。

天井には市のスローガン「スクマム!クマガヤ」のバナーが飾られ、ラグビータウンとしてのアピール全開

ポスターの中では「笑っても良かった」?

──ポスターのデザインは、どのように生まれたものですか?

熊谷さん:写真そのものを活かせるような、シンプルな方向性のもので、かつ、メッセージを強くストレートに表せるようなデザイン、というのは元々頭にありました。実は、このポスターに限っては(稲垣選手が)笑っていてもいいのかなという思いも、ほんの少しありました。

ただ、やはり“笑わない男”としての無表情を活かすことで、ポスターを見た方から「笑っていないじゃん」というツッコミも生まれるのなら、それも面白いのかもしれない、と思ったのです。これまでの稲垣選手のインタビューなども拝見して、“笑わない男”と呼ばれているけれど、お客さんや周りの人を楽しませたい、笑わせたいという思いを持っていらっしゃる一面が見られたので、無表情でもきっと内面の温かさは伝わるのでは、と思いました。

──「笑っていて欲しい」というメッセージはどのような思いから?

熊谷さん:私自身、熊谷商工会議所の青年部というところに所属していて、お店を営む方々のお話を聞く機会が多く、何かしてあげたいけれどできない、というジレンマを抱えていました。そんな中で、「笑っていて欲しい」というのは、「元気があればなんでもできる」ではないですけど(笑)、お金ではない面で、何か力になれればいいなという思いから発想しました。

──そこから、商工会議所内での話し合いはどのように進んだのでしょうか?

田島さん:実は、実際に制作に至るまで、商工会議所の会頭とごく一部の役員にしかデザイン案を見せていなかったのです。発表するまではなるべく非公開にしておきたかったですし、サプライズを大きくするためにも、できる限り人に見せずに進めました。誰が見ても反対する人はいないだろうと思っていましたし、実際に発表の直前に副会頭のみなさん全員に見せた際も「よく作った」と好反応をいただきました。

──ポスターを貼り出してから、実際に街の盛り上がりは感じていらっしゃいますか?

田島さん:そうですね。若い人たちを中心に、このポスターと一緒に写真を撮って、それが広がるなど(前述した「#ガッキーと笑おう」活動)そういった部分で直接的な盛り上がりは感じています。

稲垣選手本人がSNSで告知!「まさかご本人が…」

──ポスターを「欲しい」という方が増えているとか?

田島さん:本当にたくさんのお問い合わせをいただいております。市外、県外からも「ポスターが欲しい」という声は非常にたくさん寄せられているのですが、郵送対応が難しいため、直接受け取りに来られた方のみ、商工会議所の会員・非会員は問わずに差し上げております。

実は少し困っているのが、皆さんが大事にしすぎて、表に飾ってくださらないことです。外に貼ってアピールして欲しいのに、室内に貼ってしまうんですよ(笑)。盗まれたり、雨に濡れたりしたら困るという思いがあるのでしょうね。これまでに作って配布してきたポスターにはない傾向が見られます。

今回話を伺った田島清さん(写真左)と熊谷明美さん(写真右)熊谷さんの持ったポスターも、地元の子供達の自然な表情を切り取った力作とのこと。

このポスターが熊谷市の枠を飛び出し、全国的な話題となっているのは、稲垣本人の告知によるところが大きいと話す田島さん。今回の縁で繋がった稲垣の心遣いに感謝を示した。

熊谷さん:ご本人がSNSで告知してくださったのは、とてもありがたいですよね。パナソニックの方もびっくりしていたんですよ、まさか稲垣さんがって。今はコロナの影響で、直接熊谷にお越しいただくことはできないですが、ご本人もそれを気にしてか、サイン入り色紙を送ってくださいました。「本当はポスターにサインをしたいのですが」と。

後日、「稲垣選手がポスターにサイン入れて送ってくださった」と、田島さんから喜びの報告があった。