【インタビュー】イシグロ作品研究を進める 都留文科大 加藤めぐみ教授 練り込まれた時代背景読み取る

イシグロ研究のテーマや新作への期待を語る加藤教授=長崎市新中川町

 ノーベル文学賞作家カズオ・イシグロさんは、2017年の受賞後初めてとなる長編小説を21年3月に刊行する。作品を研究している都留文科大の加藤めぐみ教授(52)に研究テーマや新作への期待を尋ねた。

 -研究のきっかけは。
 「文学と科学の間」に関心があり、2008年ごろに小説「わたしを離さないで」と出合った。SF的と思って読んでみると、リアルな人間像を描いていて驚いた。読者が自分を重ね合わせられる作風に引かれた。

 -魅力は。
 結論が出るまでドキドキしながら読む。その時代の背景が綿密に練り込まれており、それを読み取っていくのも楽しい。

 -現在の研究テーマは。
 イシグロさんは、米テキサス大の図書館にメモや未発表の作品を納めている。その中で、日本の幽霊に関するテレビ番組を作るための企画書を発見。企画書には、長崎は日本の幽霊の発祥地であり、その長崎で江戸時代の画家円山応挙が幽霊画を描いた。だから自分の住んでいた長崎はミステリアスな地だと紹介したい-といったことが書かれてあった。応挙と長崎の関連性を調べたが、根拠の資料が見つからない。イシグロさんは、新中川町の生家近くの、光源寺に伝わる「産女(うぐめ)の幽霊」を子ども時代に知り、応挙の作品だと思い込んでいることが可能性の一つとして挙げられる。その検証論文を執筆中で、研究を兼ねて長崎を今回訪問した。今年9月にはその論文を収めた本「イシグロと日本」を出版予定だ。

 -今後の期待は。
 イシグロさんの新作は、人工知能(AI)を搭載したロボットが主人公。読者がどう自分と重ね合わせられるように描かれているのかが楽しみ。ノーベル賞受賞スピーチでも長崎への愛や母親の被爆のことに触れていた。イシグロさんは新作を携えて、ぜひ長崎に来てほしい。その前に長崎の方には、長崎が関連する作品「遠い山なみの光」などを、ぜひ読んでほしい。

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