【高校野球】「みんなでガンコウに行こうぜ」 漁師町の“幼なじみ軍団”岩内高が挑む全道制覇

岩内高校の野球部員たち【写真:石川加奈子】

北海道・岩内高は中学軟式の全道優勝メンバー、19日に南北海道大会の初戦を迎える

昨年の秋季全道大会に15年ぶりに出場した岩内ナインが「全道制覇」に挑戦する。まずは19日に夏季南北海道高校野球大会小樽支部大会初戦で小樽潮陵と対戦。中学軟式の全道優勝メンバーが地元の公立校で甲子園を目指した2年3か月の集大成を披露する。

「漁師町のきっぷの良さでしょうか。プレッシャーがかかるところで『やってやろう!』と挑んでくれるので頼もしいです」。成田貴仁監督は伸び伸びとプレーする選手たちに目を細める。チームスローガンは「常笑」。一昨年秋に選手たちが考えた。中西倖己主将(3年)は「3年間しかできないので、苦しい時こそ笑おうと決めました」と意図を説明する。だから練習中も笑顔が絶えない。

3年生16人のうち、11人が3年前に中学軟式の全道大会で優勝した後志選抜のメンバーだ。「私立に誘われた選手もいましたが、みんなでまとまってガンコウ(岩内高校)に行こうぜという話になりました」と中西主将。小学校時代からの幼なじみ軍団が地元の公立校で甲子園を目指す道を選んだ。

部員不足の野球部を完全復活させた。3季合わせて33度の全道大会出場を誇っていた古豪も、15年夏から17年秋までは連合チームを組んでの出場だった。18年春、大量16人の入部によって単独出場が可能になった。当時の上級生は3人だけ。現在の3年生は1年時から公式戦に出場して経験を積んできた。

ただ、高校野球はそんなに甘くはなかった。1年秋から2年夏まで3季連続初戦コールド負けという挫折を味わい、選手の意識が変わった。「何が足りないのか考えました。仲が良くて、強く言えないところがありましたが、それからはお互いに言い合うようになりました」と中西主将は語る。

仲良しグループを脱却した昨秋は快進撃。強力打線で奪った得点を、後志選抜のメンバーだった伊藤大真(3年)、松屋駿汰(3年)、脇田悠暉(3年)の投手3本柱で守り抜き、15年ぶりに小樽支部予選を突破した。

全道大会初戦で東海大札幌に3-6で惜敗すると、次の目標を「全道1勝」から敢えて「全道制覇」に変えた。「ミスで負けましたが、あの試合に勝っていれば、上に行けたと思うので」と中西主将が言うように最後の夏へ手応えを感じた上での上方修正だった。

人口1万2000人の岩内町は野球が盛んな町、町田監督「全道大会にもたくさん応援に来てくれました」

その「全道制覇」の目標には「Gからの挑戦」というサブタイトルもついている。「G」には「ガンコウ(岩内高校)」「岩宇地区(岩内町、共和町、泊村、神恵内村)」「郡部」「下克上」の4つの意味がある。全校生徒295人の小さな学校のでっかい挑戦だ。

ところが、5月20日に夏の甲子園大会の中止が決定した。「甲子園が目標だったので、気持ちの切り替えはなかなかできませんでした」と伊藤は当時の心境を吐露する。脇田も「去年の借りを返したいと頑張ってきたのに」と落ち込んだ。その後、北海道独自の大会開催が決まって、救われた。全道制覇の目標へ再スタートを切った。

元々野球が盛んな町だけに、1万2000人の町民の期待は大きい。OB会は毎年新入生に野球用のバッグをプレゼントし、昨秋の全道大会出場時には寄付を集め、今春最新の打撃マシンを寄贈した。成田監督は「これだけ町の方たちが動いてくれるところはないと思います。全道大会にもたくさんの方が札幌まで応援に来てくれました」と感謝する。

取材に行くと、このチームが地域から愛される理由がよく分かった。グラウンドの脇道を通る人がいれば、全員がプレーを止めて「こんにちは!」と満面の笑みで元気よくあいさつする。ちょうどその時通りがかった老婦人は、うれしそうに手を振り返していた。

残念なのは、2年生5人、1年生2人と新チームの選手数が少ないこと。この夏が終われば、他部からの助っ人選手を探さねばならない。そもそも地元で野球をやる小中学生が減少している。投手3本柱の伊藤は岩内第一、松屋は共和、脇田は岩内第二とそれぞれ別の中学のエースとしてしのぎを削ったが、その3校とも昨年すでに単独チームでの出場ができなくなった。

最後の夏は“ガンコウ”野球部の将来的な存続を懸けた戦いでもある。共和中時代に全国中学8強入りした松屋は「今の中学生に『岩内に入りたい』って思ってもらえるように、頑張りたい」と力を込める。脇田も「(岩内に)みんなで集まって良かった。自分たちの代で爆発したい」と快進撃を誓う。中学時代に全道制覇で町を活気づけた幼なじみ軍団の最後の挑戦が始まる。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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