「まさかあんな凄い選手に…」四国IL徳島・吉田篤史監督が語るイチロー氏や憧れの門田博光氏

四国IL徳島・吉田篤史監督【写真:広尾晃】

元横浜、オリックスで投手コーチを務めた吉田篤史氏は今季から四国IL・徳島監督に就任した

今年から四国アイランドリーグplusの徳島インディゴソックス監督に就任した吉田篤史氏は、新潟・日本文理高、社会人野球ヤマハを経て1991年ドラフト1位でロッテに入団。先発、救援投手として活躍し、その後は横浜やオリックス、独立リーグなどで投手コーチとして長年キャリアを積んできた。新型コロナウイルスの影響で延期となっていたが、リーグは6月20日にシーズン開幕。吉田新監督に話を聞いた。

――現役時代はロッテで通算292試合に登板。先発、救援で活躍しましたが、印象に残っていることは?
「なんといっても門田博光さんと対戦出来たことですね。僕は新潟県で育ちましたが、新潟出身の水島新司さんの『ドカベン』や『あぶさん』などを読んで育ちました。漫画に門田さんがよく出てきたんですね。体は大きくないのにすごいスイングをする選手だと思っていました。その方と対戦するのはドキドキしました。結果は打ち取りました。門田さんは南海からオリックスに移籍して、またダイエーに戻ってこられたんです。この年限りで引退されましたが、対戦できてうれしかったですね」

――イチロー選手はどんな印象でしたか?
「彼とはドラフト同期です。1年目から1軍にちょこちょこ出ていましたが、将来レギュラーになるポテンシャルはあるだろうな、とは思っていました。でも、まさかあんなすごい選手になるとは思いませんでした。最初は鈴木君で、そのときはあまり打てなくて抑えた記憶があります。僕は2年目の途中に肩を痛めて戦列を離れたのですが、次に上がった時には先発からリリーフに転向していました。でも右だったので、当時左のリリーフには同期の河本育之さんがいて、僕はほとんど対戦することはありませんでした」

――引退後は横浜、オリックスや独立リーグ、クラブチームなどで投手コーチとしてキャリアを重ねてこられました。投手コーチとはどんな仕事ですか?
「投手の成績を伸ばすのが大前提ですね。そのために、故障しないように管理してあげることが大事です。僕も故障では散々苦しんだので、それが一番大事だと思います。突発的な故障は避けようがありませんが、疲労の蓄積などで、故障するのは避けたい。腰や足も大事ですが、なんといっても投手は肩、肘を故障しないように気を付けないといけません」

ロッテでの現役時代は先発、救援を経験「お互い助け合って勝ちを目指して投球を組み立てていくもの」

――先発とリリーフでは少し違うと思いますが?
「救援投手から見ると先発投手は楽に見えるんですね。でも、球数や疲労度など難しい問題があります。また先発は緊張感の中で試合に入ります。これも大変です。それに登板間隔があくと、管理が難しくなります。一方で先発投手から見れば、リリーフは短いイニングしか投げないから楽だと思うんですが、それはそれできついところがあります」

「試合の最初はあまり入り込まなくてリラックスしていて、後半からグッとテンションを上げていく。そのやり方を先輩を見て学んでいくんですが、経験が必要です。僕は先発もリリーフも経験しているので、それがよくわかります。野球は先発と救援がお互い助け合って勝ちを目指して投球を組み立てていくものなんですね」

――吉田監督は1軍コーチも2軍コーチも経験されましたが?
「2軍の投手コーチは、どちらかというと選手を伸ばすことに精力を傾けます。その上で、チームでどうやって勝つか、というのも教えていきます。1軍コーチは、どちらかというと監督のやりたい野球のために、クオリティの高い投手を用意したり、選手の働く環境を整備するのが仕事ですね。1軍でも育成の要素は少しありますが、監督の指揮のもと、勝ちにシフトするという感じです」

――では、プロと独立リーグ、アマチュアの野球の違いは?
「『野球が好き』というのはあまり変わりませんが、プロは突き詰めます。こだわりがあるので、だんだん職人気質になっていきますね。独立リーグはその手前で止まる感じです。アマチュアも彼らのレベルなりに極めているんですが、プロのようにはいかない。プロの選手は、練習の気持ちの入り方が違います。集中力が違います。この練習をやらないと自分は追い落とされる、ポジションがなくなる、飯が食えなくなる。そういう気持ちですね。手を抜いたことが全部自分に返ってくるという感じです。アマチュアは会社があっての野球です。でも、プロは野球だけですから」

吉田監督「NPBに選手をどんどん送り出す。同時にチームも優勝する」

――徳島の監督になって、始動したとたんに新型コロナウイルス禍で、活動が制限されました。
「選手は試合がないと、お金が支払われません。だからアルバイトをしないといけない。でもその合間に練習もさせないといけない。グラウンドが使えなかったし、公共施設も使えたり使えなかったりだったので、練習をさせるのは難しかったですね。投手は、1日ごとに見てほしいといわれて、球場近くの小松海岸でトレーニングをしました。そういう形で、自粛期間中も体を動かしていました」

「独立リーグの選手は、自分たちだけではなかなか練習ができないんです。プロ野球選手はベテランになると自分で厳しい練習を課して、それができるようになります。でもその過程では、誰かに練習をやらされる時期もあるんです。僕もそうでした。やらされている時は嫌でしたが、その練習が基礎になって、自分でハードな練習ができるようになります。20代前半にしっかりやっておかないと、それ以後、練習ができなくなるので、この時期にしっかり鍛えたいですね」

――徳島の手応えはいかがですか?
「レベルは独立リーグでは高い方だと思います。僕はいませんでしたが、去年は優勝してドラフトでも3人を送り出しています。チームは、NPBに選手をどんどん送り出す。同時にチームも優勝することを目標にしています」

――他球団は「徳島が目標」と言っていますが。
「初めて聞きました(笑)。勝利とNPBへの選手輩出という2つの目標では、チームが勝つことを優先しています。NPBに行くことを優先すると、中には『いいところを見せたいのにバントか』みたいに思う選手が出てくるかもしれません。でも、チームの勝利が優先だということになれば、チームプレーが当たり前になります」

「チームが先にあって、その次に個人だよ、と言っているんです。その中で大きく働ける選手がNPBに行けるんだよ、と。ただ優勝を目指すためにベテランを使うことはしません。26、7歳になると野球はうまくなりますが、この年齢になるとNPBにはほとんど行けません。うちは10代から20代前半をメインに使って、今年も勝ちに行きます」(広尾晃 / Koh Hiroo)

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