[大弦小弦]誠実に生きる

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 自伝を出したと聞いて今帰仁村の自宅を訪ねると、夫婦そろって出迎えてくれた。著者の喜納政業さん(94)が答えてくれている間、妻ツルさん(95)がかたわらで穏やかに見守っている

▼貧しくも果敢な少年期を過ごし、19歳で沖縄戦に徴兵された。糸満の壕で火炎と毒ガス攻撃を受け一時生き埋めになる。6月末の部隊解散後も南部をさまよい戦友を失った。捕虜となったのは10月末だった

▼帰郷後、夜中によみがえる戦争の記憶にさいなまれる。見かねた父に結婚を勧められ、21歳でツルさんを迎えて7人の子をもうけた。「イモと味噌さえあれば生きられる」と、何でも仕事にして共に戦後を生き抜いた

▼著書に人間の本質を見る一場面がつづられている。壕の中で万策尽きて死の淵に立った時、将校から下級兵まで隔てなく、禁断だった妻や子の話をし始めたという。戦場で「初めて真人間を見た」と振り返っている

▼記者さん、人にとって一番大切なものとは何ですか-。話の途中で政業さんが身を乗り出してきた。そして、固く拳を握りしめ「命です。人はみな平等です」と力を込めた

▼人はどう生きるべきか。自伝を読みながら考えた。命、家族、誠実さ、戦争はそのすべてを否定する。次の世代に何を語ろう。政業さんの生きざまにその手掛かりが詰まっている。(粟国雄一郎)