メクル第475号 共育の場「みんなのまなびば み館」オープン

開放感あふれる「み館」(同館提供)=長与町嬉里郷

 趣味(しゅみ)や好きなことが生かせる、できる場所-。そんな施設(しせつ)が7日、西(にし)彼杵(そのぎ)郡長与(ながよ)町嬉里郷(うれりごう)の「グループホームながよ」1階にオープンしました。名前は「みんなのまなびば み館(かん)」。お年寄(としよ)りも子どもも、年齢(ねんれい)に関係(かんけい)なく集い、つながれる“まちのリビング”です。ここで開かれるワークショップをのぞいてきました。

 み館は、長与町で高齢者(こうれいしゃ)施設を運営(うんえい)する社会福祉(ふくし)法人「ながよ光彩会(こうさいかい)」が開きました。常(つね)に立ち寄れるオープンスペースで、手作りのハンモックやブランコ、キッチンも。助産師(じょさんし)と看護師(かんごし)の資格(しかく)を持つ館長の中山聡子(なかやまさとこ)さん(40)をはじめ、システムエンジニアの男(だん)性(せい)、介護(かいご)福祉士のタイ人女性と多様な顔触(かおぶ)れのスタッフがいます。

読書したり、ハンモックやブランコで遊んだり。思い思いに過ごす子どもたち(同館提供)

 ★中学生が魚の解体(かいたい)

 高齢者施設で暮(く)らしている人が生け花教室を、地域(ちいき)の人が料理教室を、子どもが得意の魚のさばき方を-。ここでは何でもありの学びの場として、特技(とくぎ)を生かして、年齢に関係なく誰(だれ)もが先生になれます。そして、自由に参加し生徒にもなれます。
 小学4年から包丁を握(にぎ)り、魚をさばくのが得意な中学生がいます。み館で、魚の解体(かいたい)ショーを開きました。参加するお年寄りの特徴(とくちょう)を考えながら、ブリとよく似(に)たヒラマサの見分け方クイズなどを出題。その後、ブリをさばいて刺(さ)し身を用意しました。
 ショーに参加した施設の入居(にゅうきょ)者の中には涙(なみだ)を流す人も。普段(ふだん)は感情(かんじょう)が表に出ない80代後半のおじいさんは、かつて魚市場で働いていたのを思い出した様子です。号泣(ごうきゅう)しながら刺し身を食べていました。
 「上手だったね」と参加者から拍手(はくしゅ)をもらった中学生。最初は緊張(きんちょう)していましたが、その言葉に照れながら、自信にあふれた表情(ひょうじょう)でした。

 ★家以外の居場所(いばしょ)に

 別のある教室には、不登校の小学生が参加していました。自宅(じたく)から一歩踏(ふ)み出し、大人たちと一緒(いっしょ)に最後まで作品づくりに没頭(ぼっとう)。その場には偶然(ぐうぜん)、不登校の子を持つ親も参加していたそう。「誰にとっても家以外の居場所(いばしょ)になれば」と、中山さんは話します。
 教室以外でも利用できるみ館には、予想外のことも起こります。ある日、中学生がゲームをしにやってきました。すると、スタッフに「上の高齢者施設の入居者が亡(な)くなられたので、今から霊(れい)きゅう車が来るよ。一緒に手を合わせてくれるかな」と告げられました。
 それまでゲームする手を止めなかった中学生たち。すっと立ち上がり、手を合わせて見送りました。その中学生たちは、家に帰ってその出来事を家族に話したそう。「今、核(かく)家族が多い中で、それだけ印象に残ってくれた、心が動いてくれたんだ」と、中山さんはみ館の存在意義(そんざいいぎ)を感じていました。
 み館を開設(かいせつ)した裏(うら)には、そこで、ただ過(す)ごすだけでさまざまな年代、状況(じょうきょう)に出合う。そして偶然の会話や行動を生み出したい-という思いがあります。高齢者には生きがいを、子どもたちには思いやりの心を。同じ空間にいる人たちで“共育”し合う場です。


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