茶道とAI

 長崎国際大(佐世保市)には、茶道文化を学ぶ科目がある。4年間稽古を続けた学生が卒業前に開く茶事に、何度か招かれた。慣れない正座でまもなくしびれを感じた。胡坐(あぐら)をかいていいものか、ためらっていると「膝を崩していただいて結構です」。絶妙の間で助け舟を出してもらった▲安部直樹理事長によると、茶道では茶会の参加者に慶事があれば鳳凰(ほうおう)をあしらった棗(なつめ)を使う。逆に弔事があった人には「涙」と名付けられた茶杓(ちゃしゃく)を用いる。こうして道具を通し気持ちを伝える▲茶道の本質を理解できたわけではないが、学生は相手の意思表示や言葉に頼らない、もてなしの心を学んでいる。これは「気働き」とも表現される。相手の不規則な行動や要望まで先読みをして、対応する力といえる▲身の周りでは「気働き」とは縁がなさそうな機械化や自動化が進んでいる。従業員が接客をしないホテルや店舗と聞いても、さして驚かなくなった。列車の遅れや運休を知らせる車内放送も、自動音声ソフトが読むようになるらしい▲膨大なデータの処理や複雑な計算では、人間はAI(人工知能)に勝てない。これからは多くの仕事を、AIに担ってもらうのだろう▲AIと共存をしていく社会において、人間の特性である「気働き」を、これまで以上に大切にしたい。(明)

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