直線とロングランで圧倒するGRスープラ。ホンダ、ニッサン勢はどう巻き返すのか《第1戦GT500決勝あと読み》

 2020年に約4か月遅れで開幕したスーパーGT開幕戦。富士スピードウェイで行われた第1戦のGT500クラスの結果は、トヨタGRスープラが1位から5位まで独占するという、衝撃的な結果となった。土曜の練習走行ではFR化したホンダNSX-GTが上位を独占する形で速さを見せて、予選でもGRスープラとNSXががっぷり四つの様相を見せていたが、なぜここまでGRスープラの圧倒的な横綱相撲になってしまったのか。

 レースでのGRスープラの強さはふたつあった。ひとつ目はストレートスピードの速さだ。第2スティントに入った2番手を争っていた100号車RAYBRIG NSX-GTの牧野任祐と、36号車au TOM’S LC500のサッシャ・フェネストラズの最高速は以下のとおり、8.3km/hにもなった。

・牧野任祐 294.2km/h・サッシャ・フェネストラズ 302.5km/h

もちろん、セットアップやタイヤの違いの影響もあるだろうが、クルマのL/D(揚力と空気抵抗の比)とエンジンそのもののパフォーマンス差が大きいと見られ、ドライバーの頑張りでこの差をカバーするのは極めて難しい。

 そしてGRスープラのふたつめの強みは、ロングランの強さだ。牧野がレース終盤に1分31秒-32秒台でラップを重ねるなか、フェネストラズは1分29秒-31秒前半のタイムを刻み、序々に2台の差は離れていった。ホンダ勢最上位ながら5位となったRAYBRIG牧野がレースを振り返る。

「予選では2列目に入って純粋なスピードはあったと思うんですけど、決勝はスープラが強かったという印象です。レースではピックアップ(タイヤかすが取れずにグリップダウンする現象)もあって、セーフティカー明け(43周目)からスープラに付いて行けませんでした。(ストレートスピードも)見て頂いたとおりの状況で、すべてにおいてスープラが強い感じを受けました」と牧野。

 ストレートが速く、スティント後半も安定してラップタイムを重ねるスープラに対して、NSX陣営は次第に順位を下げていく展開となった。ホンダGTプロジェクトリーダーの佐伯昌浩氏も、レースでのスープラの強さに驚きを受けたようだ。

「開発期間が短いなかでFRに換えてNSXを開発したなかで、どうしてもテストではショートラン中心のテストになった。ロングランについては苦しいなと予想していたのですが、思っていた以上に厳しい結果になってしまいました」と佐伯氏。

 レースで大きな差となってしまったストレート速度についても「ホモロゲーションが決まっていて限度があるので難しいとは思いますが、今日も17号車(KEIHIN NSX-GT)はある程度勝負できていた部分もあった。セットアップである程度までいけるとは思いますが、それでもスープラのストレートは速いなと思います」と佐伯氏。まだまだ熟成不足のFR-NSXだけにセットアップの伸びしろも多いようだが、「それでも数km/hはこれからも負けるだろうなと思います」と、佐伯氏は厳しい見方をしている。

 ホンダ陣営としては、予選一発の速さがあるだけに、NSXの走行機会が増えれば増えるほどスープラとの差は縮められる可能性が高いが、テスト機会が少ない今季のスケジュールのなかでいつ追いつくことができるのか。時間との戦いにもなりそうだ。

■GRスープラ1強時代を、ホンダNSX、ニッサンGT-Rは止められるか

 また、今回の開幕戦で顕著だったのが同一メーカー&タイヤメーカー内の、チーム間のパフォーマンス差だ。GRスープラのブリヂストン勢のなかでもパフォーマンス差が以外と大きく、NSXのブリヂストンユーザー3チームでもセットアップの方向、そしてタイヤ選択やレース戦略は分かれた。GT-R陣営でもミシュランを履くCRAFTSPORTS MOTUL GT-RとMOTUL AUTECH GT-Rのパフォーマンス差が分かれたのが印象的だった。

 とあるメーカーのとあるチーム関係者たちが話す。「実はウチのチーム、テストでは表には出せないような細かなミスが多くて全然、セットアップがまとめられなかった」「テストの時間が短いなかでトラブルが多くて、セットアップの判断を間違ってしまった」……etc.

 開幕前には富士公式テスト、その後には鈴鹿テストとメディアシャットダウンでテストが行われていたが、エンジン制御面やステアリングのパワステなどなど、細かなトラブルが実はどのメーカーも多かったようなのだ。さらにはそういったトラブルが多く出たチームとあまり出なかったチームにも別れ、走行時間の差がセットアップの差、タイヤ選択の差、そして戦略の差へとどんどん拡大していったことが考えられる。

 GRスープラ勢の開発が3メーカーのなかでもっとも順調に進められたことは想像に難くないが、一方のニッサンGT-R陣営は開幕までには解決したようだが、テストではプロペラシャフトのトラブルやアクシデントが重なり、限られたテスト時間を有効に使い切ることができなかったことが伺える。

 今回の開幕でもカルソニック IMPUL GT-Rが公式練習でエンジンのソフトウエアのトラブルが起きてしまい、十分に走れなかったことでクルマのセットアップがまとまらないまま、その後の予選14番手という結果につながってしまった。GT-R陣営としては、タイヤメーカーが4台でミシュラン、ブリヂストン、ヨコハマと3メーカーに分かれていてことでデータが共有しづらいことも、短い時間での新型車両開発にはデメリットになってしまったと考えられる。

 カルソニックは決勝でもオープニングラップでModulo NSX-GTとのレーシングアクシデントによる接触でリヤ部を大破してリタイア。ニッサン総監督の松村基弘氏も「GT-Rのブリヂストンはカルソニック1台だけなので、レース距離を走り切ってデータを集めたかった。ミシュランのデータはあるけど、ブリヂストンのデータがもっとほしかった。第2戦目以降に向けても痛いリタイア」と、アクシデントを振り返る。

 開幕戦ではニッサン陣営の厳しさが露呈する形になってしまったが、GRスープラ、FR化したNSXに比べてR35 GT-Rがもっとも古いデビューマシンのため、空力的な形状面で厳しいという分析がある。いずれにしても第2戦目以降、ホンダ、ニッサン勢の奮起がなければこのままGT500クラスはGRスープラ1強時代が続いてしまいかねない。

「あれだけ(GRスープラと)ストレート速度差があると厳しい面がある。富士はあと3戦あるのでエンジン面でも改良を加えて、車体でも今回のデータを集めてきっちりと戦えるようにセットアップを詰めたい。ウチもこれまではダウンフォースを付ける方向で富士の予選を走ってきたけど、今年のマシン規定、そして今回のレースを見てもダウンフォースよりもストレート速度、加速に振った方がレースで必要になってくる。今回応援してくれたファンのみなさまには申し訳ないですが、そのあたりも勉強して、次のレースを戦えるように頑張ります」とニスモの松村総監督。

 2013年ぶりに同一駆動方式となり、クラス1規定で同一モノコックの採用で特別性能調整がなくなった2020年のGT500クラス。3メーカーの戦いのゆくえは、開幕戦の1戦にして早くもGRスープラの1強状態になってしまったが、第2戦以降、このパワーバランスはどのように変化していくのか。

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