コロナ「優等生」ドイツの陰、1500人集団感染

出稼ぎ外国人、劣悪な生活浮き彫りに

©株式会社全国新聞ネット

住宅前に設けられた隔離用の金属柵越しに現状を話すルーマニア人労働者=6月30日、ドイツ西部フェアル(共同)

 ドイツの大手食肉処理工場で6月、従業員ら1500人以上の新型コロナウイルス感染が判明した。安価な労働力として雇用される東欧からの出稼ぎ外国人が多く、国内最大規模の集団感染となった。充実した医療態勢を背景に周辺国より死者を大幅に抑え、感染対策が称賛されたドイツ。だが、現地ではコロナ流行下でも多数の外国人労働者が狭い宿舎に詰め込まれ、劣悪な生活を送ってきた。集団感染でその実態が浮き彫りになり、支援団体は大企業の「搾取の象徴」と改善を訴えている。(共同通信=森岡隆)

 ▽金属柵に囲まれて

 ドイツ西部ノルトライン・ウェストファーレン州の人口約2万5千人のフェアル市。現地を訪れた6月末、麦畑に面する古い4階建ての住宅4棟が隔離用の金属柵で取り囲まれていた。大手食肉会社経営の処理工場は近隣にあり、感染発覚後に操業を中止。他の住宅と合わせ、この地区では従業員以外の人も含む約800人が足止めになった。

 柵は高さ約2メートルで、隔離から抜け出そうとした人が相次ぎ、地元当局が設けた。外には警備員が24時間態勢で見張りに立ち、内側ではこの住宅を宿舎として使う外国人のグループが所在なくたたずむ。多くは欧州連合(EU)域内で経済水準の低いルーマニアやブルガリアの出身者だ。

 「稼ぐためにドイツに来た。同僚はルーマニア人ばかり。1日10時間、働く。ドイツ人のやらないきつい仕事だ」。柵の中からルーマニア人男性が話す。住宅の入居者は頻繁に入れ替わり、別のルーマニア人男性は「10人近くが暮らす部屋もある」と打ち明けた。

隔離用の金属柵を挟んで話すルーマニア人労働者ら(共同)

 現場を見回るミヒャエル・エスケン市長(54)は「(800人のうち)70人が陽性だった。当初は誰がどの部屋に住んでいるか分からなかった」。柵越しに宅配業者が食品を届け、市民有志が生活必需品を差し入れる。

 ▽がんじがらめ

 工場を調査した専門家はろ過設備のない空気の循環システムが集団感染の要因と指摘するとともに、宿舎の居住条件にも問題があったとの見方を示した。同時に食肉会社が仲介業者と契約し、業者が人材募集から給与支給、宿舎の用意などを一手に引き受ける仕組みにも、搾取の構造だとして国内の注目が集まった。

 地域で長年、外国人労働者を支援する慈善団体のフォルカー・ブリュッゲンユルゲンさん(56)は6月末、食肉業界で働く外国人の宿舎を訪れた。15平方メートルの部屋にブルガリア人男性3人が暮らし、粗末なベッドがあるだけだった。

 仲介業者が3人から天引きする家賃は月に計960ユーロ(約11万7千円)。法外な額で、他の部屋に暮らす労働者と合わせて11人が小さな台所を共有していた。

隔離用金属柵の内側に立つ外国人労働者ら(共同)

 仲介業者も多くの場合、ルーマニアやブルガリアなど労働者と同じ国の人間で、食肉の解体など重労働に就く人々に最低レベルの賃金しか支払わない上、通常の2~3倍に上乗せした家賃を通じてさらに収奪する仕組みという。

 ▽人々の欲

 「労働者の多くは十分な教育を受けていない貧しい人々だ。自国で職に就けずにこの国へ来たが、ドイツ語も不十分で最低賃金しか得られず、2級労働者の扱いを受けている」とブリュッゲンユルゲンさん。ドイツがコロナ危機を乗り越えたことを誇りに思うが、でもだからこそ今回の集団感染にやるせない気持ちでいる。国内では5月以降、複数の食肉処理工場で集団感染が発生し、労働者を取り巻く環境に問題があることは分かっていた。だが、地元の食肉処理工場ではその後も安全軽視がまかり通り、その結果、多数が感染したからだ。 

6月に集団感染が判明した食肉処理工場。撮影中、警備員が現れ、即刻立ち退くよう迫った=6月30日、ドイツ西部レーダ・ウィーデンブリュック(共同)

 地元のタクシー運転手フランク・ルドルフさん(55)は「あの会社は外国人労働者に依存している。彼らが良い扱いを受けていないことを地元の誰もが知っていたが、大企業に対して何も言えなかった」と語った。

 7月に入り、労働者が金属柵で隔離された地域では規制が解除され、工場も段階的に操業を再開した。

 ハイル労働相は集団感染を受け、食肉業界で仲介業者が絡む契約を禁じる法を整備すると述べた。ただ、外国人労働者の存在と店頭の食肉価格の関係は密接だ。「安い肉を求める私たちの欲がこの仕組みを後押ししている」。ブリュッゲンユルゲンさんがうなずくように話した。