迷走するGoTo、旅行業者の本音

 迷走しながらも、22日から始まる「Go To トラベル」キャンペーン。新型コロナウイルスの感染再拡大が続く中では反対の声も大きいが、実施しないと「業界が死ぬ」との訴えもSNSでは話題に。いま、旅行業者はどのような状況に置かれ、この迷走をどう見ているのか。旅行代理店業を営むAさんに、匿名を条件に業界の実情やキャンペーンへの本音、不満を寄稿してもらった。

*  *  *  *  *

■売上げ「ほぼゼロ」

 観光庁によると、主要な旅行代理店全体の5月の収入は前年比2.4%まで落ち込んでいるそうです。中小業者にあたる弊社の場合、2月から変更・キャンセルが増え、3月には新しい予約はほとんどなくなり、売上はほぼゼロの状態が続いています。

 一方で、年末まで多くの予約が入っており、キャンセルの連絡は毎日会社に届きます。売上はないのに、人件費はかかってしまう。雇用調整助成金や国の融資制度を利用して何とか耐えていますが、限界に近くつらい状況です。

■夏休みが山場

 特に需要の大きい夏休み期間までこの状態が続くと、業界に与える影響はさらに大きくなるでしょう。それだけに、GoToのような需要を一気に回復させることができる施策は、業界にとっては必要不可欠です。夏休みの需要が無くなったら、弊社と同様に経営が持たない会社も多いのではないでしょうか。

■業界が死ぬ、という「遺書」への本音

 GoToをめぐっては、SNSで「業界が死ぬ」とする「遺書」が出回り、同情や批判の声が集まっています。感染者の増加が今後もしばらく起こりうる中で、国民・首長・旅行観光業界、それぞれがそれぞれの立場で意見をしているので、うまくまとまらないのは当然です。

 もちろん、私個人としては、旅行代理店の経営者として、売上の回復が急務ではあります。ただ、業界の都合だけを優先する考えに納得がいかない世論も理解できます。

 そもそも、GoToによって多くの感染クラスターを生むような状況になってしまうと、「旅行は自粛すべき」という論調がいま以上に広がり、結局また現状のような売上ゼロの状態が続きかねません。それだけは避けたいと願っています。

■完成度低い、場当たり的なGoTo

 GoToに期待を寄せているとはいえ、さらに業界の首を絞めることにならないか、という疑問も持っています。巨額な委託費の問題もあり、キャンペーン運営団体の委託先選定が予定より大幅に遅れるなど、そもそもキャンペーン自体の完成度がとても低いです。22日から始まりますが、事務委託先が決まったのは7月10日です。突貫工事もいいところでしょう。

 旅行代理店としても、GoToに参加するためには国への登録が必要となりますが、観光庁のホームページ上では、登録開始は20日時点で「7月半ば頃」から変わっていません。参加条件が示されていますが、参加できるかどうかは正直曖昧。さらに、どのような方法でキャンペーンを実施すれば良いのかもはっきりとせず、正確な案内ができない状況にあります。「東京は対象外」「キャンセル負担は個人」「キャンセル料はやはり国が補償」という話も直前になって出るなど後手後手で、非常に場当たり的です。

「Go To トラベル」の割引対象から東京都発着の除外を伝える東京・渋谷の大型ビジョン=16日午後

■疲弊する従業員

 GoToの話が出る以前から、コロナ対応の業務が急増し、顧客対応の従業員はとても疲弊していました。そんな状況下で旅行代理店が正確に案内できないようなキャンペーンを告知し、内容も二転三転することで状態はさらに悪化しています。今後もキャンペーンのしわ寄せが代理店の従業員に流れてくるでしょうから、とても不安です。

■実は旅行会社も悪い

 ただし、不毛な「お問い合わせ」の波が押し寄せているのは、一部の大手旅行会社にも原因があります。ガイドラインも出ていない中で、先行して宣伝を始めてしまったからです。マーケティングの担当者もヒマになっていますから、それ以外にやることがなかったのでしょう。

■新しい旅のあり方を

 現状では、GoToは世間の旅行ピークに合わせた策で感染抑制策とのバランスは取れておらず、「3密」を生み出してしまうという批判が出るのは当然です。国は旅行観光業界も交え、単なる観光需要喚起ではなく、一部で話が出ている「休暇の分散」も含めた新しい旅のあり方を普及促進して欲しいです。

© 一般社団法人共同通信社