「金」ってそもそも買った方がいいの?最近、金価格が上昇している理由

国内金価格が過去最高値を更新し続けています。これまでの推移を振り返ると、1980年1月に1グラム=6,495円の高値をつけた後、長期低迷して1999年9月に917円まで下がりました。それが今や6,800円台。なぜ、ここまで金価格は上がってきたのでしょうか。今回はその背景について、そして次回は個人が最もやりやすい金投資の方法について考えてみたいと思います。


実物資産と金融資産の違い

金は「実物資産」です。実物資産の代表的なものとしては土地、そして金をはじめとする貴金属が挙げられます。

これに対して株式や債券、投資信託、預金などは「金融資産」と呼ばれています。

実物資産と金融資産の違いは、信用リスクの有無にあります。実物資産は、たとえば金なら金という物質に価値がありますが、株式や債券などの金融資産は、こう言っては何ですがただの「紙切れ」です。その紙切れがなぜ価値を生むのかというと、それらを発行している企業などの信用力があるからです。そのため、たとえば株式を発行している企業が経営破綻すると、株式はただの紙切れになってしまいます。

これに対して実物資産は、そのモノ自体に価値が認められていますから、よほどのことがない限り価値がゼロになることはありません。なかでも金の価値は、世界中で認められています。

だから戦争や地域紛争、リーマンショックのような金融危機が生じた時、金が買われるのです。極端な話、金融危機によって多くの企業や金融機関が破たんし、ほとんどの金融資産が無価値になったとしても、実物資産である金の価値は発行企業の信用力と無縁なので無価値にならないと、多くの投資家は考えるのです。

最近、金価格が上昇している理由

そう考えると、なぜこのところ金価格が上昇してきたのかが、何となく見えてきます。

国内金価格は2019年7月あたりから騰勢を強めていますが、ニュースを振り返ると、さまざまな事件があったことに気付くでしょう。米中貿易戦争はすでに深刻化していましたし、2019年10月にはストックホルムで行われた北朝鮮の非核化をめぐる米朝実務者協議において、北朝鮮側が「決裂」を宣言。2020年に入ってからは新型コロナウイルスのパンデミックによって世界経済が停滞し、米中対立が一段と深刻化しました。まさに「有事の金買い」です。

加えて、世界各国が経済の停滞によるリスクを最小限に抑えるため、積極的な財政出動と金融緩和を打ち出しました。財政出動や金融緩和は、簡単に言えば政府や中央銀行が世の中にお金をばら撒く行為です。世の中にお金が溢れ返れば、金利はどんどん低下します。

ご存じのように、日本だけでなく他の先進諸国でも、今や金利がマイナス圏に入っているところが少なくありません。その結果、債券を保有するメリットが後退し、その代替として金を保有する動きが強まってきました。さらに量的金融緩和によって市中に現金が大量に供給されたことにより、行き場を失った現金の一部が金市場に流れ込み、金価格を押し上げています。

資金の大量供給による金利の低下は、将来のインフレを予見しています。インフレとはモノの値段が上昇することなので、実物資産の価格上昇を促します。現時点における金価格の上昇は、将来のインフレ期待を反映したものと考えることも出来るのです。

金価格は長期的に上昇する

ところで、ここまで申し上げた金価格を上昇させている要因は、基本的には短期の価格変動を促しているものばかりです。有事の金買いは有事が収まれば終わりですし、積極的な財政出動と金融緩和による資金のダブつきも、永遠に続くものではありません。これらを材料視している短期の投資家がいなくなった時点で、価格の上昇圧力は後退します。

しかし、それでもまだ金価格は上昇する可能性があります。それは、長期的・構造的な金買いの要因があるからです。

それは金ETFの存在です。金ETFは米国をはじめとして世界中の証券取引所に上場され、日々売買されています。

金ETFがはじめて登場したのが2003年のこと。金ETFには投資された資金に相当する金が組み入れられるため、ETFの残高が増えるほどETFを経由した金の買い需要が高まります。世界中の金ETFの金地金保有残高は、2003年末が32トン、2004年末が156トン、2005年末が342トン、2006年末が559トンというように順調に増加傾向をたどり、2020年5月末は過去最高の3510トンに達しました。

長期的な金価格の推移を見ると、国内金価格は1999年に1グラム=917円、国際金価格は2001年に1トロイオンス=255.95ドルという最安値をつけた後、現在の上昇トレンドに至っています。

金ETFは、金という実物資産を証券化したものです。従来、年金基金をはじめとする機関投資家は、株式や債券などの有価証券にしか投資できませんでしたが、金ETFの登場によって、金という実物資産にも投資できるようになりました。近年、多額の資金を運用している年金基金などの機関投資家は、自分たちが運用しているポートフォリオのリターン向上とリスク分散を図るため、株式や債券といった伝統的資産に加え、オルタナティブ資産にも投資しています。

つまり、金ETFの登場と機関投資家のリスク分散ニーズが合致した結果、長期的・構造的な金価格の上昇につながったと考えられるのです。

世界中の資産運用業界における運用資産総額は、PwCの予測によると101.7兆ドルに達します。1ドル=110円で計算すると、1京1187兆円です。このうちオルタナティブ資産に振り分けられる金額が13兆ドル。日本円にして1430兆円です。

これに対して金の地上在庫は約1000兆円しかありません。つまり世界中の機関投資家がリスク分散を目的にして金などのオルタナティブ投資を進めれば進めるほど、金市場には相当程度の資金が流入し、長期的に金価格を押し上げる要因として作用することになります。市場構造という点で考えれば、金価格の上昇圧力は当面、弱まることはないと考えられるのです。

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