「世界最凶」バッタが農作物を食い尽くす 体が変色し戦闘モードに、コロナで対策困難

アフリカ・ケニアの空に飛び立つサバクトビバッタの大群(FAO提供)

 世界で最も破壊的な害虫―。人々の生活を支える農作物や牧草を食い尽くす「サバクトビバッタ」の異名だ。バッタの大量発生による災禍は「蝗害(こうがい)」と呼ばれ、古代エジプトのファラオ時代に出現したとの報告もある。過去には日本でも農業に大打撃を与え、地域住民を苦しめたようだ。現在、ケニアなど東アフリカで猛威を振るった無数のサバクトビバッタの大群が南アジアにも出現し、深刻な食糧問題を引き起こそうとしている。この危機を打開すべく、国連食糧農業機関(FAO)などの支援の下で各国が駆除活動に当たっているが、増殖スピードが速い上に、新型コロナウイルスの影響で作業員の移動や駆除するための薬剤の運搬がままならず、活動に支障が出ている。(共同通信=杉田正史)

 ▽止まらぬ勢い

 雨期の終わりを迎えた6月。インド洋に面し、「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ大陸東端のソマリアに、空を黒く覆うほど無数のサバクトビバッタが押し寄せた。その大群が過ぎ去った後、地元の農家が大切に育てた穀物は無残にも食い尽くされていた。「年末まで新しい食糧はない」。農家は途方に暮れるだけだった。

牧草を食い荒らされたソマリアの農家の男性(右)ら(FAO提供)

 今年1月以降、ソマリアの隣国ケニアで、約70年ぶりにバッタが大量発生し、食糧問題に直面した。その北側のエチオピアなど他の国も同様の被害に遭っており、アフリカ東部では2500万人以上が食糧危機に陥ることが予想される。

 サバクトビバッタは体長約5センチで、3カ月ごとに新しい世代となる。半年で数が4百倍に増え、1年以内に最初の16万倍まで増殖する可能性がある。主にアフリカの半乾燥・乾燥地帯や中近東などに生息し、餌となる植物を求めて移動する。2018~19年に発生したサイクロンなどによる大雨の影響で植物が育ち、繁殖に適した環境を手にしたことが今回の爆発的な増加につながったとみられている。

 その勢いは止まらない。6月に入り、インドやパキスタンといった南アジアでも大発生しており、空がバッタで覆われている様子が現地メディアなどで伝えられた。南米のアルゼンチンやその隣国でもサバクトビバッタと似た種類のバッタの増殖が確認され、世界中に被害が広がりつつある。

 ▽戦闘モード

 FAOなどによると、サバクトビバッタは生活環境や群れの密度によって、体の色や行動が変化する「相変異(そうへんい)」を起こす昆虫だ。

 普段は、体色が餌の植物に似た緑色や茶色で単独行動する「孤独相(こどくそう)」。だが今回のように大群となり、密度が高まって個体同士が触れ合うと、相変異により体色が黒色と黄色で羽が長くなる「群生相(ぐんせいそう)」に変身し、農作物を根こそぎ食い荒らす〝戦闘モード〟と化す。

餌の植物を食べるサバクトビバッタ=イエメン(FAO提供)

 成虫は毎日、体重と同じ約2グラムの餌を食べる。多食性で、大麦や野菜、トウモロコシ、サトウキビと、ほぼ全ての植物と農作物が餌となるという。

 1日に最大150キロ程度の飛行移動が可能で、日の出から約2時間後に本格的に活動を始め、日没直前に落ち着く。

 成虫の群れの大きさは、1平方キロから数百平方キロと幅広い。個体数は1平方キロ当たり、4千万~8千万匹が集まっている可能性がある。推定では、4千万匹の比較的小さい集団でも1日で約3万5千人分の食糧を消費するとされている。

 ▽移動制限

 バッタの大群を制御する方法として、有機リン系の農薬や昆虫成長調整剤を使用する。これらの薬剤を小型飛行機やドローン、車などで噴霧器を使って散布を繰り返すが、バッタの活動が広範囲にわたるため、大量発生前の早い段階で対策を実行する必要がある。

ソマリアの農場でサバクトビバッタの防除にあたる政府関係者=5月(FAO提供)

 大量発生が起きた国だけでは対処しきれない状況を踏まえ、FAOは5月、バッタの制御や飢餓を防ぐための費用として国際社会に3億1160万ドルの支援要請を行った。ドイツやフランス、韓国など多くの国々が支援に乗り出している。

 だが、新型コロナの影響で、人や物資の支援が難しくなっているようだ。FAO駐日連絡事務所の田村萌々花(たむら・ももか)広報官は「防除に使うヘリコプターや農薬を必要とする地域に運ぶ際に遅れが出ている。作業員も移動制限がかかるなど支障もあるが、現地では状況に合わせて対応している」と語った。

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