営業再開も経営はギリギリ、ベルリンの映画館の「生き残り策」

ベルリンの映画館が7月2日に営業を再開しました。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて休業を余儀なくされてから、109日ぶりの営業再開です。

街中の映画館も、再開に伴い装いをあらたにしました。例えば、東ドイツ時代からあるキノ・インターナツィオナール。営業再開に備えて6月下旬頃から準備が始まり、3ヵ月間掛ったままになっていたバナーが掛け替えられ、新作のポスターが貼り出されました。

映画館の営業再開に際しては、喜びの声が上がる一方で、地元紙ベルリーナー・モーゲンポストは「チケットは簡単に手に入るのか?」「衛生面の配慮は十分なのか?」「そもそも密室に来る観客はいるのか?」などの不安の声も伝えました。


ソーシャルディスタンスを徹底した営業再開

7月2日の営業再開からおよそ1週間後の7月9日、筆者はベルリン市内にある単館系映画館、ロルベルク・キノに足を運びました。

同映画館では、新型コロナウイルス対策の一環として掃除、除菌の徹底やマスク着用などの措置が取られていました。中でも、ソーシャルディスタンスを保つための工夫はいたるところに見られ、感染を防ぐための方法が綿密に練られたことがうかがえます。

市内映画館ロルベルク・キノの入口

例えば、チケットの購入方法。以前は窓口でチケットを購入する来場者は少なくありませんでした。しかし、チケット売り場やロビーに人が密集するのを防ぐため、現在はオンラインでの購入が勧められています。さらに、オンラインチケットに割引を適用することで、オンラインでの購入を促進する仕掛けになっています。

館内においても、人と人の接触が最低限に抑えられるように動線に工夫があります。これまでひとつだったスクリーンの出入り口は、入り口と出口に分けられ、移動時に観客同士がすれ違う可能性が減りました。また、座席は前後1列ずつ、横2席ずつ開いており、座席数は通常の15%〜30%程度に制限されています。

こうした措置に対して、同じスクリーンにいた観客に聞いてみると「混雑した映画館より快適で、映画を楽しめた」と答えてくれました。

一方、従業員の男性は、これらの対策により仕事が増えたと話します。

「観客数は減ったのですが、来場者がマスクをつけているかどうか、指定された席に座っているかどうかなど細かくチェックしないといけません」

再開後も苦境にある映画館経営

映画館の業務は増えたにもかかわらず、経営は苦しい状況が続いています。ベルリンで15の映画館を経営するクリスティアン・ブロイアー氏は、ベルリン・ブランデンブルク放送局のインタビューにおいて、正常な運営はまだ不可能だとの見方を示し、多くの映画館の経営がギリギリ、あるいは破滅的な状態にあると述べました。

映画館のこうした窮状の背景には、ソーシャルディスタンスを維持するための来場人数制限のほかに、3ヵ月以上にわたる休館とそれに伴う収益の激減があります。

このような状況において、映画館は存続をかけて努力をしています。連邦政府や州機関による公的な支援への申請もそのひとつです。とはいえ、映画製作会社や配給会社、映画館など映画産業全体に対して支給されるのが1,500万ユーロ(約18億720万円)で、映画館に割り当てられるのはそのうちの200万ユーロ(約2億4,100万円)です。

1館あたりにすると、受取額は9,000ユーロ(約108万円)~1万5,000ユーロ(180万円)となり、3ヵ月分の休業を補償するには十分ではありません。

そのため、独自に映画の前売り券やグッズを販売し、それによって利益を少しでも確保するという方法をとる映画館もあります。

ロックダウンに対して素早く立ち上げられた非営利組織も、映画館の存続に一役買っています。例えば「ヘルフェン ドット ベルリン(Helfen.Berlin)」という団体はITや広報のプロが運営しており、同団体が無償で提供するプラットフォームでは、支援したい施設のギフト券を購入することができます。

こうした施設の中には映画館も含まれており、担当者によると、支援を受けた施設からは感謝の声が届いているとのことです。

歴史的映画館の破産申請も

残念ながら、続くコロナ禍に耐えきれず閉館を決めた映画館もあります。独紙デア・ターゲスシュピーゲルは5月30日に、100年以上の歴史を誇るベルリンの映画館、コロッセウムが破産を申し立てたと報じました。

市内映画館コロッセウム

代理人のゼバスティアン・ラボガ氏はデア・ターゲスシュピーゲルなどのメディアに、コロッセウムが利益をあげるには平均して70%以上のチケットが売れる必要があったと話しました。そして、営業再開にあたっても売り上げが見込めなくなったことにより、破産の道を選んだと述べました。

現在、コロッセウムの閉館には反対の声が上がっており、映画館を守ろうとする団体との間で交渉が行われています。コロッセウムの建つパンコウ地区の区長も映画館の保存に前向きな姿勢を見せており、地元紙ベルリーナー・ツァイトゥングに、文化施設の一部として映画館を残すように経営者に掛け合うつもりだと話しました。

金銭的な成功だけでは測りきれない芸術をどこまで守れるのか。ベルリンの文化的多様性を支えるための動きはこれからも注視する必要がありそうです。

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