コロナで見えた地方の大逆転シナリオ 埋まる東京との「ビジネス時差」

「東京優位」の時代がついに終焉する?(写真はイメージ)

 海外で成功したビジネスモデルをいち早く日本で展開し、大きな利益を得る「タイムマシン経営」。多くの場合、まずは東京で取り入れられ、地方へ広がるにはさらに5~10年の時間を要していた。だが、フリーランス人材への仕事紹介などを手掛けるみらいワークス(東京・港)の岡本祥治社長によれば、副業人材の活用やコロナ禍で普及したリモートワークの影響により、この構図に変化が起き始めているという。東京と地方の「ビジネス時差」を埋める「国内版タイムマシン経営」について解説してもらった。

 ■米中に遅れる日本

 世界の新技術やサービスの発祥は、一昔前まではアメリカが独占し、今ではアメリカと中国の2か国独占の流れとなってきている。

 日本のスタートアップや大企業の新技術やサービスの立ち上げについて見てみると、アメリカや中国で立ち上げられた類似技術やサービスを、1~2年遅れで立ち上げるといった特徴がある。

 実際にシリコンバレーで話題になっているスタートアップのビジネスモデルをそのまま日本で立ち上げた、と明言するベンチャー経営者もいるほどだ。

 これは、会社の経営手法も同じで、外資系コンサルティングファームがアメリカで成功した経営手法を日本の企業に取り入れるといったやり方で多くのプロジェクトを受注してきたことと全く同じである。

 新たな経営手法やフレームワーク、ITソリューションなども、取り入れるまでには同様の「時差」が1~2年あり、外資系コンサルティングファームなどはこのアメリカと日本の時差を利用して、ビジネスを発展させてきた。

 そしてこの時差という概念は、「海外と日本」の間だけではなく、日本国内の「都心と地方」の間でも同様に起きている。

 ■さらに遅れる地方

 日本は、政治や経済、人口、情報が都心部に集中する東京一極集中の状況にあり、ビジネスの最先端も都心部に集中している。

 海外の新技術やサービス、経営手法などは、まずは東京で取り入れられ、その後、関西、全国へと広がるまで、なんだかんだ言って5~10年はかかる。

 日本の「都心と地方」には「時差」が5~10年あるのだ。この時差により、経営の品質・手法・ノウハウ、人材の質にも大きな格差が生じてしまう。

 つまり、同じ人が都心で実施していることを、地方で同様に実施すると、「ものすごく仕事ができる人」になるわけだ。

 このような人材が地方で働けば、「都心と地方」の「時差」と格差が埋まり、日本国内全体の経済活性のスピードが加速するはずだ。

 しかしながら、東京一極集中により、このような人材は都心に留まっているため、地方との「時差」はなかなか縮まらないのが現状だ。

 ■「時差」を埋める2つの新潮流

リモートワークの普及により、東京一極集中の是正に期待が高まっている(写真はイメージ)

 この「時差」を縮めるためには、都心から地方への人材流動化が必要で、今までは移住が前提であった。しかし、この1年で新しい波が2つ出てきた。

 1つは、都心の人が、副業で地方の企業で働くといった、「副業×地方」の波である。これは、政府の組織である「まち・ひと・しごと創生本部」が、地方への人の流れを強化するために、将来的な地方移住にもつながる「関係人口」を創出・拡大するための施策の一つとして、副業人材を地方で活用することを政策に盛り込んだことがきっかけとなった。

 これにより、都心で働いている人材が、地方企業で「副業」という働き方をする波が訪れている。都心で最先端の仕事をしている人が、今この瞬間の最先端の経営手法やノウハウを地方でも同時に広めることができる。つまり、「都心と地方」の時差を縮めることができるようになるということである。

 2つ目は、コロナ禍によって広がったリモートワークの波である。新型コロナの感染拡大を契機に、リモートワークが当たり前になってきた。

 そうなると、これまで東京のオフィスに通勤するのが当たり前であったため、東京近郊に住んでいた人が、東京近郊に住む必要がなくなってくる。

 実際に、リモートワークが始まってから、地方にある実家や箱根といったリゾート地からリモートワークをしている知人もいた。東京で仕事をしなくてもよくなったら、いろんな地域を転々として地方で東京の仕事をする人が増えるだろう。

 そして、例えば各地域の飲食店などで地元の経営者との接点ができて、東京の情報が地方に流れていくこともあるだろう。

 今の時代、いくらインターネットが普及しているとはいえ、「都心と地方」に5~10年の「時差」が生まれている事象と地方の特徴を見てみると、インターネットから情報収集するのではなく、人と人とのご縁から情報を収集している人はまだまだ多いのではないか。

 人が移動することにより、リアルな接点や偶発的な縁によって、「都心と地方」の情報格差も埋まっていくのではないかと思う。

 ■日本経済への効果

 では、この2つの波は日本経済にどのような効果をもたらすのか。

 日本の企業規模を見てみると、約359万社のうち、約99・7%が中小企業である。また、地域別数を見てみると、一都三県以外の地方に、全体の75・2%の約270万社が存在する(※1)。

 また、国内総生産(GDP)を見てみると、一都三県以外の地方が国内全体の約67%を稼ぎ(※2)、人口を見てみると、全人口の約70%が一都三県以外の地方に住んでいる(※3)。

 これらの数字からもわかるように、地方経済が良くなるということは、日本経済全体を押し上げることになる。

 副業やコロナの影響から加速したリモートワークにより地方に人が流れ、これにより地方企業はビジネスの最先端をタイムリーに取り入れる「国内版タイムマシン経営」を行うことができる。「都心と地方」の時差が縮まることにより、地方企業の業績が上がり、結果として日本経済全体の活性化に繋がる。地方に住む人が増えることで、生活が充実した人が増えてくる。こういうシナリオもあるのではないか。(みらいワークス社長=岡本祥治)

※1 中小企業の企業数・事業者数 都道府県・大都市別企業数・従業者数(2016年) https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/chu_kigyocnt/181130kigyou2.pdf

※2 内閣府 平成28年度県民経済計算について https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kenmin/files/contents/pdf/gaiyou.pdf

※3 総務省統計局 都道府県,男女別人口及び人口性比-総人口,日本人人口(2019年10月1日現在) https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2019np/index.html

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