『「ダイエットこじらせさん」が今度こそやせる本』七瀬葉著 荒波をサバイブするためのダイエット本

 趣味はダイエット、特技はリバウンドです。上手い!言い得て妙!!なんつって冗談にできないほど、減量に失敗し続け幾星霜。今年に入り6kg痩せて、4kg戻った。多分。多分っていうのは、現実と向き合うのが怖くて体重計にすら久しく乗ってないので、あくまで予想ってこと。

 無理なく痩せるには、これまでのやり方じゃダメだ。四十路も近くなって今更学び、手に取ったのがこちらの本。「ダイエットこじらせさん」、いい響きでしょう。「今度こそやせる」、希望に満ち溢れているでしょう。著者よ!ダイエットコーチの七瀬葉ちゃんよ!最後の女になってくれ!!と、決意をあらため挑戦です。

 著者の七瀬は、子どもの頃からダンサーに憧れていたそう。念願叶って芸能事務所のオーディションに合格し、上京。ダンサー人生のスタートを切った20歳の彼女は、一年目でなんと15kg増。嘘だろ。

 原因はストレスだった。周りに大勢いる経験豊かで優秀なダンサーに勝てる気がしなかった。そして彼女はダンサーとしてのキャリアに一区切りをつけることを決意する。これからは自身の身体と向き合い、身体づくりのプロを目指すことにしたのだ。

 そして気付いたのが、不安やストレスといった満たされない心を、食べることで埋めてしまう悪循環。そこで七瀬は痩せたい人たちの心のあり方に着目する。それをまとめたのが本書、というわけ。

「なりたい『私』になる」、「未来から逆算して目標を立てる」、「ネガティブ感情を味方につける」、「必要のないストレスを手放す」、「セルフコントロールできる『私』になる」、「『自分軸』で輝ける人になる」……。ダイエット本というより自己啓発本みたいな印象だ。とはいえ書かれていることは腑に落ちる。人と比べて自分を責めたり、「こうでなければ」という高いハードルを掲げてしまう完璧主義だったり。自分に厳しくしてしまう思考のクセを自覚し、自分でほぐして、いい方向に持ってけるようになるのが、本書の目的だ。

「目標設定するときは、『他人軸』から『自分軸』へとスイッチする」というのも本書の大きなテーマだ。他人から「痩せた」「キレイになった」と褒められることを目標にするのではなく、自分で自分を認められる目標にする、ということ。自分ではコントロールできない問題を抱えてしまうことは、余計なストレスを抱えることとイコールだと七瀬は語る。

 いやほんとそうだよな!と膝打ちまくる一方で、妙に気になる箇所がある。七瀬の元に通う生徒たちのエピソードがしばしば登場するのだが、彼女たちの多くは「ダイエットに成功したら彼氏もできて結婚できてウェディングドレスかわいいの着られて子供に恵まれ息子はキレイなママが大好きで仕事もバリバリで毎日超ハッピーです」的な結末がめっちゃ出てくるのだ。え、さっきの人と同一人物?あ、この人はHさん(30代)で、この人はYさん(30代)でしたかそうですか。中にはダイエット挑戦前に自分でイメージする、成功後の未来予想図の中に「結婚」って書いてる人もいたりして。えー、これこそ自分一人じゃコントロールできない問題じゃない?って思うけど、まあ「この人と結婚したい」じゃなくて「私と結婚したい人と結婚したい」だったら、まあ許容範囲か。うーん。でも違和感あるんだけど、なんなんだ。

 読み進めながらふと思い浮かんだのが、シンデレラのお話。痩せたら美しくなって、美しくなったらドレスが似合って、ドレスが似合ったら王子様に出会えて、王子様に出会えたら末長く幸せに暮らせる……うん、やっぱり私の違和感、ここにありだなぁ。

 どうして痩せたら幸せになれるっていうストーリーを描いちゃうんだろう。もちろん心のこじらせをほぐした後は、ビフォーに比べてスッキリサッパリ、シンプルな考え方になってるかもしれない。でもそのアフターが魅力的か否かは「他人軸」が勝手に評価することよね。そしてなんで男に選ばれるっていう最大級の他人軸でハッピーエンドにしちゃうんだろう。あとがきにも書いちゃってるよ、「愛する夫と息子の3人暮らし」って。えー、わかんない。私が変なの?こじらせちゃってひねくれちゃって可愛くないの?え、そうなの???

……はぁ。解せないモヤモヤポイントがでっかくいっこあったけど、それでも学べることが多かったんですよ、本書。中でも一番印象的だったのが「自分自身と仲良くなること」という言葉。「『私』がどういうときに気分が良くなり、どういうときに気分が悪くなるかを知っておく」、つまり「私のトリセツ」を作ることでストレスを軽減できる、ということらしい。

 結婚だとか「女の幸せ」だとかが入り組んで、兎角ややこしくなりがちな妙齢女子のダイエット。そんな彼女たちの繊細な気持ちを、本書はきっと明るくしてくれるだろう。誰と比べるでもなく、自分と向き合い仲良くする。それはきっとダイエットだけにとどまらず、世間の荒波をサバイブするときにも心強い武器になってくれるはずだ。

 色々言っちゃったけど、自分をマネジメントするのに本書はとっても有益だということを、声を大にして言いたい。シンデレラ問題は、まあ、あれだ、今度居酒屋かどっかで話そう!な!!

(講談社1300円+税)=アリー・マントワネット

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