「今年はグリッドにも行けない」コロナ禍で仕事に変化。田辺TDとの連絡もより頻繁に/ホンダ本橋CE独占インタビュー(後編)

 コロナ禍の3連戦。「いや〜、本当に疲れました」と語る、アルファタウリ・ホンダの本橋正充チーフエンジニア。スタッフ数も制限され、対面での意思の疎通もままならない。チーフエンジニアの本橋さんですら、レーススタート前のグリッドには入れない。

 そこまで気をつけても、ハンガリーでは感染者が出た。コロナ禍のレース活動は、今までと違うストレスが多かったようだ。しかしそんな状況でもF1が開催され、レースを戦える喜びが、言葉の端々からうかがえた。

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──今年は新型コロナウィルスの蔓延がマシン開発にも影響を与えたと思います。チームのあるファエンツァは、被害のひどかったイタリアのなかでも厳しい外出制限が行われた地域です。ファクトリーのシャットダウン(全面閉鎖)自体はイギリスのチームと同じだったとはいえ、イタリアのチーム特有のダメージというか、開発上不利な部分はなかったんでしょうか。

本橋正充チーフエンジニア(以下、本橋CE):それはないと思います。その点はFIAが公平な対応をしていますから、イタリアだから不利を被ったとか、逆に比較的コロナ被害の少なかった日本の我々が有利になったとか、そういうことは一切ありません。

 ただシャットダウン明けの短い期間に、どれだけ集中的に開発、アップデートができたかという違いは、あると思います。

──シャットダウン後の開発力の差が、今の力関係に出ているということですか。

本橋CE:それはある程度、あると思いますね。もちろん3月に本来の開幕戦が中止になったあとも開発は続いていたわけで、それをどれだけ現実的な形にして投入できたかということですね。

2020年F1第1戦オーストリアGP ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)

──シャットダウン明けは、これまでのようにファエンツァのスタッフがイギリス・ミルトンキーンズに行ったりもしているのでしょうか?

本橋CE:人の行き来はできるだけ減らして、ただ情報交換はできるだけ密に行うようにしてきました。

──本橋さん自身は、ずっとイギリスに滞在していたのですか?

本橋CE:メルボルン後はイギリスにいたのですが、いったん日本に戻って、シャットダウン明けからさくらR&Dで開幕に向けた準備をして、6月に再びイギリスに戻りました。そこからオーストリア入りしました。

──今年は去年までのレース週末とは、いろいろ勝手が違ったと思います。実際に開幕3戦を終えてみて、一番難しかったところはスタッフ間の直接的な意思の疎通でしょうか。

本橋CE:それは、ありますね。顔を突き合わせて話し込む、というのはできないわけですから。ちょっとしたことが、気軽に話せない。ただ今は通信手段がいくらでもありますから、そのために支障を来したとか、そういうことはないですね。

──セッション中は、インカムで連絡を取り合っている?

本橋CE:さくらとミルトンキーンズも繋がってますから、彼らといっしょに話をしたりしてました。

──セッション前後だと、これまでは本橋さんと田辺さんがモーターホームの横でちょっと立ち話したりとか、そういう光景も見られました。

本橋CE:それはできなくなったので、携帯で話したり。その意味では今まで以上に頻繁に連絡を取り合うようになったかもしれません。

2020年F1第1戦オーストリアGP 田辺豊治(ホンダF1 テクニカルディレクター)

──ホンダ側のエンジニア、メカニックの人数は去年までと変わっていないとのことですが、チーム側は減っているわけですね。

本橋CE:FIAの要請もあって、たとえばグリッドに行く人数は減ってます。それもあって、ひとりひとりの作業上の守備範囲は広がっていますね。

──ハンガリーではパワーユニット(PU)の全交換も行いましたが、それにはチーム側のスタッフも加わりましたよね。去年までに比べて作業に支障が出たりとか、なかったですか?

本橋CE:特になかったです。人数が多少減っても、みんなプロフェッショナルですから。作業時間の遅延とかはなかったです。非常にスムーズでした。

──グリッドに行ける人数は、ホンダ側も制限されていますか?

本橋CE:はい。私も今年は行けません。なので何か突発的に起きた時の判断手段や具体的な動き方は、事前にチームと一緒に準備してます。

──ハンガリーではレッドブルが、グリッド上でフェルスタッペンのマシンを応急修理しました。人数も少ない中、去年以上に緊迫したのでしょうね。

本橋CE:そう思います。でも実際に見ていて、本当にプロフェッショナルの仕事でしたね。今回はレッドブルでしたが、どのチームでも同じようにやり遂げるんだろうと思いながら見てました。

──グリッド上のメカニックの人数も、通常より少ないのですか?

本橋CE:具体的な人数は把握していませんが、ホンダ側でいうと人数は減ってます。両チームを見るチーフメカニックも、私同様グリッドには行ってません。

──そうすると万一レーススタート直前のグリッド上でパワーユニット関係のトラブルが起きた際には、リモートで指示を出すしかない。

本橋CE:そうですね。過去にもいろいろトラブルがありましたし、その辺の経験をおさらいして、減った人数でどう対応しようとか、事前にストーリーを想定しながら準備してます。

──3連戦は一昨年も一度ありましたが、やはりくたびれるものですか。

本橋CE:いや〜、本当に疲れました。シャットダウン中はちょっとのんびりしていたこともあり、そこからの3連戦はきつかったですね。さっきも言ったように連戦中は現場からファクトリーへの情報発信も、単独開催の時以上に力を入れている。そこも、疲れる要因ですね。

──次戦はいわば地元のイギリスですから、少しは楽になりそうですか?

本橋CE:いや、基本的には、どこでやるかはあまり関係ないです。ファクトリーが地理的に近い分、地の利を活かして有効活用しようとは思っていますが。とはいえ地元だから楽とか、そういうことはないですね。

──感染に気をつけながらの連戦も、疲れを増しますね。

本橋CE:そうですね。今まで気にしていなかった要素ですし、非常に神経を使います。ひとりの感染が、チーム全体に影響する。そこは全員がしっかり意識して、ホテルからの外出もみんな控えてますし、消毒やうがいも頻繁に行っている。せっかく素敵な場所に滞在しても、外で伸び伸びと食事できないのは辛いですけどね。

 ただそういう状況でもレースが開催できたわけですし、そこで最大限のパフォーマンスを発揮するのが、我々の使命だと思っています。

2020年F1第2戦シュタイアーマルクGP金曜 ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)
2020年F1第2戦シュタイアーマルクGP ダニール・クビアト(アルファタウリ・ホンダ)

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