ALS患者に死をもたらした容疑者たち ネット上で晒していたその「異常性」 「ドクターキリコになりたい」とSNSでつぶやく

23日、京都市内に住んでいた神経難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者からの依頼を受け殺害したとして、嘱託殺人の疑いで医師2人が逮捕され関係者に大きな衝撃が走ったが、このふたりは実は以前から医療関係者として、一部には比較的知られていた存在だった。2人の今回の件に繋がる経歴とともに、自らの殺害を依頼したALS患者との接点などを追う。

大久保容疑者は以前から「異常な発言」で知られる

逮捕された2人のうち大久保愉一容疑者は、個人特定はされていなかったものの以前から「mhlworz」のハンドル名でTwitter、ブログなどで非常に積極的に発言しており、その内容が一時期波紋を呼んだこともあった。そのため良くも悪くもネット上では知名度があり、Twitterアカウントのフォロワーは1.9万人にものぼっている。厚生労働省の英語の略称をハンドル名に使っていることでも分かるように、自身が医系技官だとほのめかしながら安楽死に関する過激な意見を投稿し続けていたため、一定の注目を浴びていたのだ。

また、自身が安楽死に関する卓越した技術を持っているかのような発言も繰り返しており、「高齢者を枯らす技術」と題したブログサイトや、電子書籍も発刊している。そういった一連の発信の中で、他の著名な緩和ケア医などとも数回、ネット上で意見を交わしたこともあり、まるでその分野の「識者」であるかのような振る舞いをしていた。

Twitterで繋がった接点 死にたいと表明するALS患者に助言、信頼獲得か

大久保容疑者と見られるアカウントが、今回殺人を依頼したとみられるALS患者のアカウントと接点を持ったのは昨年7月。動脈採血の辛さを訴える患者の訴えに反応し、医療従事者として助言したのがきっかけのようだ。この内容自体は適切で、主治医に採血せずとも測定できる医療機器を導入させる契機となり、このことで信頼を獲得したとみられる。

切迫感の増す患者の投稿に積極的に反応「当院にうつりますか?」

この患者は、アカウント開設した理由そのものが安楽死の支援を得るためだった。そのため大久保容疑者と接点を持ってから、急速に内容が切迫感を持ったものに変わっていく。昨年8月には主治医に安楽死の援助を拒まれたとして怒りを表明。その前後から、大久保容疑者とより頻繁にやりとりするようになる。その流れの中で、大久保容疑者が、自身の経営するクリニックに転院するよう持ちかける場面もあった。

これが具体的な契機になったかは不明だが、以後、誰もが見られるかたちのツィートでのやりとりはなくなった。この時期以降、DMと呼ばれる当事者間しか見られないダイレクトなやりとりに移行したとみられる。

大久保容疑者と電子書籍を共著 以前から考えに共鳴か

Amazon.co.jp: 扱いに困った高齢者を「枯らす」技術: 誰も教えなかった、病院での枯らし方 eBook: 山本直樹, mhlworz: Kindleストア

こうした一連の流れには出てこないもう一人の医師、山本直樹容疑者だが、実は大久保容疑者と共著で、彼がブログのタイトルにも使っている「高齢者を『枯らす』技術」と題した電子書籍を出版している。彼は東京都内などにED治療専門クリニックを開業する、一部では名の知られた医師だ。

※同姓同名の別の医師の方が複数いらっしゃいますが、専門分野がまったく違いますので誤解のないようお願いいたします

また、彼は自身が院長として経営するクリニックグループのほかに、未承認・自由診療のがん治療法と称する「ヨウ素治療」を中心に行う別の医療法人の理事だ、と自身のTwitterアカウントで明かしている。この治療のカギとなるヨウ素を元にした「治療薬」の知財を持っており、海外のベンチャーキャピタルから資金調達も果たしているという。

経歴からは、神経難病ALSに関する接点は全く見られず、大久保容疑者と死亡した患者とのやりとりにも一切出てこないが、書籍を共著していることから大久保容疑者の考えに共鳴し「安楽死」を新たな事業領域として考えていたのではないかと推察される。著書は2015年発刊でかなり前の時期であることから、今回露見した件以外にも、嘱託殺人を行なっていた可能性は否定できない。今後の捜査の進展が待たれる。

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