ザ・ブルーハーツ「情熱の薔薇」今こそ刺さる… 問いかけてくる歌詞 1990年 7月25日 ザ・ブルーハーツのシングル「情熱の薔薇」がリリースされた日

ヒロト&マーシーにとって唯一のナンバーワンソング

 見てきた物や聞いた事
 いままで覚えた全部
 でたらめだったら面白い
 そんな気持ち分るでしょう

 なるべく小さな幸せと
 なるべく小さな不幸せ
 なるべくいっぱい集めよう
 そんな気持ち分かるでしょう

思わずはたと停まり少し考えてしまう。この2か所の歌詞を挙げるだけで、ブルーハーツが新しい次元に進んだことがよく分かるだろう。

It was 30 years ago today.
1990年の今日7月25日、ザ・ブルーハーツの6枚め(自主制作盤を除く)のシングル「情熱の薔薇」がリリースされた。前のシングル「青空」から1年1か月、レーベル移籍後第一弾であり、ニューアルバム『BUST WASTE HIP』からの先行シングルであった。

出世作「TRAIN-TRAIN」(1988年)に続き、この曲はTBSの斉藤由貴主演のドラマ『はいすくーる落書2』の主題歌に選ばれた。これも奏功してか「情熱の薔薇」は8月6日付のオリコンシングルチャートで1位を獲得している。現時点でも、これがヒロト&マーシー(甲本ヒロト&真島昌利)にとって唯一のNo.1ソングとなっている。

甲本ヒロトも認めた屈折した曲作り

個人的な話になるが、30年前僕は社会人2年めだった。「情熱の薔薇」を初めて聴いたのはリリース1か月前の6月21日(木)深夜、『ビートたけしのオールナイトニッポン』においてであった。

陳腐にも思えるタイトルには少し戸惑ったけれど、いざ聴き始めると曲はいつもの様にせつなく鋭く、思わず涙が出てしまった。初めて聴いたブルーハーツのシングルに涙したのは「TRAIN-TRAIN」以来。まさにひと目ならぬ “ひと聴き” 惚れであった。

当時僕は職場の仲間とカラオケに行くと、ブルーハーツの「リンダ リンダ」や「TRAIN-TRAIN」をヒロトよろしくジャンプしながら歌うのが十八番になっていた。この2曲、とにかく盛り上がったのだ。

「情熱の薔薇」もレパートリーに加わるかと僕は期待し、実際に歌ってみた。その時のことは未だに憶えているが、これが予想に反して盛り上がらなかったのだ。

よく考えてみれば当然のことだったかもしれない。「情熱の薔薇」には「リンダ リンダ」や「TRAIN-TRAIN」の様にタイトルを連呼するサビが無く、最後の最後にようやくタイトルが入ったサビが出てくるのだ。

 情熱の真っ赤な薔薇を
 胸に咲かせよう

「情熱の薔薇」の作者、甲本ヒロトも屈折した曲作りだったと認めていたそうである。サビが1回だけでしかも曲の最後では、カラオケでは盛り上がり辛いのも無理は無かった。

大胆なオーヴァーダブ、パンクロックに収まらなかったブルーハーツ

しかしカラオケで盛り上がるのが “いい曲の条件” では、もちろんない。

 永遠なのか本当か
 時の流れは続くのか
 いつまでたっても変わらない
 そんな物あるだろうか

冒頭に挙げた2か所の歌詞を含め、これまでに無く哲学的な歌詞が続く。あくまでも答えではなく問いかけなのだ。

 答えはきっと奥の方
 心のずっと奥の方
 涙はここからやってくる
 心のずっと奥の方

サビではないBメロでもこのように歌われ、答えが決して近くにはないことが印象付けられる。そう、ためにためて最後に “情熱の薔薇” が出てくるのである。その起爆力たるや。問いかけの続く哲学的な歌詞には、デビュー当初 “若者の代弁者” とも称されていたブルーハーツの面影はもはや無くなっていた。

そしてサウンド面でも「情熱の薔薇」でブルーハーツは大きな変化を遂げていた。重低音が厚くなったミドルテンポのイントロ、そこから急にテンポアップし、つんのめるように曲が始まる。ブルーハーツ屈指の名イントロだ。

さらに目を見張るのは大胆にオーヴァーダビングが施されたことだった。マーシーのギターは複数の音色を奏で、サビのヒロトのヴォーカルは何とダブルヴォーカル。そのサビにはオルガンも加わり、アウトロでは梶くんこと梶原徹也が当時ハマっていたスティールドラムまでが乗ってくる。ライヴで再現出来る音を旨としていたブルーハーツが大いにレコーディングバンドに舵を切っていた。

既に1988年の前作『TRAIN-TRAIN』で、それまでの2作のアルバムを形作っていたパンクロックからの脱却、そして発展を見せていたブルーハーツだったが、その流れは「情熱の薔薇」でいよいよ決定的になった。もはやブルーハーツはパンクロックに収まる存在ではなかった。

時代を越えたスタンダード、理由は歌詞の普遍性にあり!

シングル「情熱の薔薇」は、ドラマのタイアップも含め、きちんと結果を出すことも目指して作られたのではないかと僕には思える。レーベルも移籍し、90年代に向けて花火を打ち上げたかったのではないだろうか。それが証拠に、1か月半後にリリースされたアルバム『BUST WASTE HIP』に収められた「情熱の薔薇」はオーヴァーダビングが全く無い、4人で演奏されたヴァージョンだった。もはや花火を上げ終えたかの如く。

結果は見事No.1。ザ・ブルーハーツは鮮やかなまでに90年代の、そしてキャリア後半の船出を果たしたのだった。

3分足らずを駆け抜ける「情熱の薔薇」は時代を越えて愛されるスタンダードになった。大御所和田アキ子にもカヴァーされ、CMでも2010年代になっても使われ続けている。やはり単なる打ち上げ花火には留まらなかった。

その理由の1つがやはり歌詞の普遍性であろう。冒頭に挙げた2つの歌詞を改めて読んで欲しい。僕も年齢を重ねるにつれますます実感せざるを得なくなっている。特に後者を。そしてこの歌詞、新型コロナウイルス禍の続く現在でも、改めて刺さってはこないだろうか。

カタリベ: 宮木宣嗣

© Reminder LLC