なぜ鹿島は“絶不調”なのか?その「理由」と「逆襲のキーマン」を探る

待望の今シーズン初勝利から中3日、連勝とはいかなかった。

7月22日に行われたJ1・第6節の湘南ベルマーレ戦。第5節の横浜F・マリノスとの一戦を4-2で制し、ようやく勝点3を手にした鹿島アントラーズは、シュート数で相手を上回りながらも0-1の敗戦に終わり、前節の勢いを削ぐ結果となってしまった。

鹿島アントラーズ

新たにザーゴ監督を招聘した今季は、開幕4連敗と波乱のスタートとなった。第6節終了時点で17位と、非常に厳しい戦いを強いられている理由は何だろうか。

そして、ここから浮上するためにキーマンとなり得る選手は誰だろうか。今回の当コラムでは、上記のテーマについて述べていきたい。

“伝統”をマイナーチェンジした「4-2-1-3」が基本形

まず、2020シーズンの基本システムを見ていこう。

鹿島と言えば、伝統的に中盤フラットの「4-4-2」で戦ってきたが、今季は前線の配置にマイナーチェンジが施された「4-2-1-3」がベースとなっている。

守護神は不動の存在であるクォン・スンテで、最終ラインは右から広瀬陸斗、犬飼智也、町田浩樹、永戸勝也(杉岡大暉)の4人。

ダブルボランチは三竿健斗、レオ・シルバ、永木亮太がローテーションで起用され、トップ下の遠藤康または白崎凌兵が攻撃を司る。

3トップの頂点は上田綺世または伊藤翔で、複数の選手がポジションを争うウイングは、右がファン・アラーノ、左はエヴェラウドがファーストチョイスとなっている。

開幕から苦しんでいる理由は……

冒頭でも触れた通り、今季の鹿島は開幕4連敗スタートを喫し、第6節終了時点で1勝5敗の17位に沈んでいる。開幕から大いに苦しんでいる理由は、「大胆なスタイルチェンジ」にほかならない。

これまでの鹿島は、絶対的な戦術がないチーム作りを主としてきた。

オーソドックスな「4-4-2」をベースに、選手たちが戦況と時間帯に応じて最善のプレーを臨機応変に選択する。何よりも勝利が第一にあり、セットプレーからの1発をしたたかに守り勝ち切るスタイルが伝統だった。

絶対的な戦術がないにもかかわらず、数々のタイトルを獲得できてきたのは、ひとえに「選手たちのタレント力」と「チームカラーに合った選手/指導者を見極めるフロントの発掘力」があったからだ。

監督交代があっても、“戦況と時間帯に応じて最善のプレーを臨機応変に選択できる“選手たちがチームを支えているから、タイトル争いに絡むことができていた。

しかし近年は、その風向きに変化の兆しがあった。

きっかけは、主力の相次ぐ海外挑戦だ。

柴崎岳、植田直通、昌子源、安西幸輝、安部裕葵、鈴木優磨――。代表クラスの選手たちが海を渡るのはクラブ、サポーターにとって誇らしい反面、タレント力の低下は否めなかった。

2018年に悲願のアジア王者に輝いたとはいえ、翌2019年シーズンは無冠に終わった現実。

そして、絶対的な戦術を持たないゆえに、試合中に改善ができないと最後までリズムが掴めず押し負けてしまう姿も目に付くようになった。昨季の天皇杯決勝でヴィッセル神戸に良いところなく敗れた事実が、ある種の限界を物語っていた。

現状に危機感を覚えたであろうフロントは、政権交代に踏み切る。迎え入れたのは、ポゼッションスタイルを標榜するザーゴ監督だ。

新指揮官は、センターバックとボランチを中心としたビルドアップを重要な約束事とし、いかなる状況でもボールを繋いで崩す形を植え付けようと試みている。

ポゼッションスタイルは成熟まで時間が掛かるのが常ではあるが、これまでとは決定的に異なる戦術にトライし、選手間の相互理解が思うように進んでおらず、崩しの形を今ひとつ構築できていないことが、開幕から続く苦戦の理由である。

逆襲の鍵を握る男たち

勝利に結びついていないとはいえ、開幕当初と比べればビルドアップがスムーズになり、連動した崩しの形も見られるようになるなど、内容面では向上の気配が感じられる。

最後に、逆襲のキーマンとなり得る選手たちを挙げていきたい。

まずは、鹿島一筋を貫くベテラン・遠藤だ。

精度の高い左足と卓越したテクニックを誇る背番号25は、トップ下の位置で躍動。巧みなチャンスメイクで攻撃にアクセントをつける司令塔として、抜群の存在感を放っている。ここ数年は出場機会が減少傾向にあったが、新戦術との相性はもっとも良く、現政権で最大のキーマンとなりそうだ。

また、右サイドを中心に複数のポジションで起用されているアラーノも、今後に期待したいプレーヤーだ。一見派手さはないものの、的確な位置取りと確かなスキルでポゼッションの潤滑油となれるだけに、アラーノが完全にフィットすれば戦術の完成度も高まる。

そして、ポゼッションスタイルのフィニッシャーとして期待されるのが、2年目の上田だ。

第5節の横浜FM戦で2ゴールを決めるなど、新たな得点源として更なる活躍が見込まれていたが、第6節の湘南戦で負傷し、約1か月の離脱がリリースされた。上田の欠場は非常に痛く、複数のアタッカーでその穴をカバーしていかなければならない。

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左サイドにコンバートされたエヴェラウド、積極的な姿勢が光るルーキーの染野唯月は得点の可能性を感じさせるだけに、やはり結果が欲しいところ。もちろん、実績のあるオールラウンダー・伊藤の奮起も逆襲に不可欠だ。

written by ロッシ

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