防げぬ「選挙ヘイト」都知事選でも

法務省など取り締まり通知も、対応できぬ現場

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 選挙の立候補者が「選挙運動の自由」に名を借り、街頭演説などで人種差別発言をする「選挙ヘイト」が近年問題になっている。法務省や警察庁は、昨年の統一地方選を前に、選挙中でも取り締まるよう各地の法務局や警察、自治体に通知していた。しかし、7月5日投開票の東京都知事選でも、目に見える対応はなかった。ヘイトスピーチ対策の実効性のなさが、またも露呈した。(共同通信ヘイト問題取材班)

 ▽蔑称を連呼

 都知事選告示日の6月18日、「日本第一党」党首の桜井誠候補(48)は港区の中国大使館前でマイクを握った。中国の蔑称「支那」を連呼し「武漢肺炎をまき散らした支那中共政府に怒りの声を共に上げよう」と呼び掛け、「支那人は10万円で簡単に人を殺す」などと演説した。

 大使館から出てきた車に向かって「おい、支那人のねえちゃん、答えてみいや」「普通だったら石投げられて、車燃やされて当たり前なんだよおまえら」と暴言を吐いた。

 さらに、矛先を沖縄県の玉城デニー知事に向け「支那の工作員」とも発言。この時の動画が日本第一党のサイトに掲載されたため、誰もが見られる状態になった。

 「選挙ヘイト」に対応するため、法務省と警察庁は昨年3月、統一地方選の直前に「選挙運動の自由といって差別的言動の違法性が否定されることはない」「虚偽事項の公表などがあれば適切に対処する」との通知を出している。

 ▽都庁は対応せず

 しかし、都庁の反応は鈍かった。都選挙管理委員会の佐藤竜太選挙課長は取材に「ヘイトかどうかは都人権部が判断し、違法であれば警察が摘発する」と説明し、「基本的に選挙運動は自由だ。選管が介入する権限はない」と答えた。

 次に人権部の宮沢夏樹担当課長に尋ねると「選挙であろうとヘイトスピーチは許されない」との立場を表明したものの、桜井氏の発言については「ヘイトかどうかを判断するのは都条例に基づく審査会。都独自で封殺はできない」とし、各部局とも具体的な対応に踏み出さなかった。

 都がヘイト対策として実施したのは、立候補する各陣営への事前説明の際に、法務省が発行する「ヘイトスピーチ、許さない」というチラシを手渡したことだけだった。

 桜井氏は前回2016年の都知事選に出馬した際も、中国人や韓国人を中傷する演説をした。投開票の結果、今回は前回を上回る17万8784票を獲得している。

東京都知事選で掲示板に張られた桜井誠候補(中央)のポスター=3日、東京・新橋

 ▽止める難しさ

 龍谷大の金尚均教授(刑法)は「桜井氏の演説内容はひどいが、ヘイトと言い切れるか、政治的批判なのかは微妙だ。ただ、玉城知事への発言は名誉毀損(きそん)罪や侮辱罪に当たる可能性があり、その場合は親告罪なので、玉城氏自身の告訴が必要となる。いずれにしても、現場で演説を止めさせるすべは、現状ではない」と説明する。

 ヘイト問題に詳しい関西学院大の金明秀教授(社会学)は「桜井氏の発言は地域社会からの排除を扇動しており、明白なヘイトスピーチだ」と指摘する。一方で、選挙ヘイトを止められないのは日本だけの問題ではないと言う。「多くの国で課題となっているが、実効性ある対策は取れていないのが現状だ」

 対策として必要なのは、政府による注意喚起や、メディアが差別主義者を他の候補者と公平に扱わないこと、市民が臆せずに抗議することだという。「日本でも少しずつ実践されてはいるが、演説を止めるにはいたらない」と難しさを語る。

 「差別が犯罪だという認識が日本には乏しい。まずは差別禁止法が必要ではないか」と述べ、禁止規定や罰則のないヘイトスピーチ解消法の限界性を指摘した。

街頭演説でプラカードを掲げる人=2019年4月、東京・JR新宿駅前