「一人にしてはいけなかった」 佐世保高1同級生殺害6年 塾講師の男性、今も自問

男性は「一人一人に合わせた歩み方と向き合い方があっていい」と考え、子どもと向き合っている(写真はイメージ)

 2014年に起きた佐世保市の高1女子同級生殺害事件は、26日で発生から6年。同級生の女子生徒=当時(15)=を殺害した元少女(21)が事件前どんな心の闇を抱えていたのか。「あの子を一人にしてはいけなかったのかもしれない」。塾講師として元少女に接していた男性(57)は今も自問している。
 男性は50歳の時、30年近く務めた教員を辞め、大手学習塾の講師になった。そこで元少女と出会った。2012~13年、中学2年の冬から3年の夏にかけて約9カ月間、週に1回1時間程度、一対一で数学を教えた。
 勉強のできる非常に優秀な生徒だった。常に淡々としていた。勉強以外の話はなかったが特段気には留めなかった。塾で会えば「先生」と手を振ってくれた。ただ、一つだけ心に引っ掛かる出来事があった。

 事件の前年の13年。病死した元少女の母親の葬儀に参列した時のこと。彼女は涙を流さず「無表情に近かった」。感情を表に出さずとも、最愛の母を亡くし悲しみに沈んでいるのではないか-。そう思った男性は「これからどうしていくの?」と気遣った。彼女の口から出た言葉は「留学しようと思います」。
 男性は当惑した。進路の話を聞きたいわけではなかった。どうしてその局面でそのような言葉を発したのか。胸の内を測れぬまま、それが元少女と交わした最後の会話となった。
 男性は、元少女の事件を知人から聞いた。残忍な犯行は、男性が抱いていた元少女のイメージとは結び付かなかった。もっと長い時間向き合っていたら、彼女の心の深淵(しんえん)を知ることができただろうか。自分に何かができただろうか。男性は今も考え込む。そしてこう思う。「心に闇を抱えていたことが分かっていたのなら、彼女を絶対に一人にしてはいけなかった」
 男性は事件の年、大手塾を退職し、佐世保市内に個人塾を設立。小学生から高校生まで指導している。これまで、心身の不調で不登校になりながらも学習や進学に意欲を持ち塾に通ってくる子どもを見てきた。出席日数が足りず高校を退学せざるを得なかった教え子もいた。
 悩みを抱える子どもたちから相談があれば、じっくり耳を傾ける。事件を経て、それまで見えていなかった子どもたちの心のひだのようなものが見えるようになった気がしている。「画一的ではなく、一人一人に合わせた歩み方と向き合い方があっていい。子どもの可能性をつぶさないことが次の事件を未然に防ぐことにもつながるはずだ」。男性は今、こう確信する。
 毎年、事件の日が近づくと、男性はかつての「教え子」のことを思う。社会復帰したのだろうか。もし彼女が望むならば会って話もしたい。そして、更生を果たせたのか、自分の目で確かめてみたい。その時に再びこう尋ねよう。
 「これからどうしていく?大丈夫か?」と。


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