兵庫県のソウルフード「御座候」3代目社長に聞いてみた 70年愛される理由って?

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山田宗平社長=姫路市(撮影・吉田敦史)

 大判焼きに回転焼き、今川焼き。見た目が同じようなお菓子が数ある中で、兵庫県民の多くは「ここのは別物」と口をそろえる。商品名と同じ社名を冠する姫路市の「御座候(ござそうろう)」が今年、創業70年を迎えた。一つ95円。おやつに土産、来客のもてなしにと、年間約5千万個を売り上げる。「お買い上げ賜りありがたく御座候」と感謝を忘れず、北海道・十勝産の小豆を本社工場であんこにして全国の店舗に直送、お客さんの目の前で手焼きする。姫路にオープンした「あずきミュージアム」で日本人と小豆の関わりを伝える一方、10年余りをかけて商品用に新品種を開発した。昨年、父の後を継いだ3代目社長の山田宗平さん(34)に愛される理由を尋ねてみた。すると、「私も考えたんです。御座候らしさって何だろうって」。(佐伯竜一) 

■全国に74店舗を展開しています。コロナ禍の影響は?

 「駅構内を中心に多い時で12店舗が臨時休業しました。営業時間を短縮した店もあり、4月下旬の売り上げは例年に比べ、ほぼ半減しました。それでも営業した店では『開いてて良かった』『ありがとう』との声をいただきました。うちの商品を通して、お客さまが日常を取り戻すこともある。あらためて実感しました」

■なぜ、売れ続けるのでしょうか。

 「なぜ…でしょう。創業した祖父が唱えた『本物の味』は意識しています。小豆は産地で低温保管し、姫路の工場に運んで午前中、当日の気候に合わせて水分を調整しながらたいていきます。味付けは昔ながらの砂糖と塩。甘みを抑えた風味豊かなあんこをすぐに冷やし、夕方には出荷、原則次の日に店舗に届けます」

■各店に着いてからは、手焼き職人の腕の見せどころだそうですね。

 「生地は小麦粉と水あめ、膨張剤を合わせますが、こちらも季節によって水分を調整します。型に流し、中心にあんこを均一に入れ、生地で薄く包んで、強い火力でぱりっと焼き上げます。かじった一口目から、あんこと生地が混ざり合うのが理想です。私自身、入社して1カ月半ほど研修しましたが、一度に30個焼きますから、時間をかけると生地の皮が硬くなってしまう」

 「焼き手は約200人いて、本社で研修したり、巡回指導をしたり。数十年の熟練者は、一つ一つの動きに無駄がありません。適正な火力で焼くと、持ち帰ってもさくっとした歯触りが楽しめる。毎年、社内で技能コンテストを実施し、切磋琢磨(せっさたくま)しています。本物の味を届けるための大切な取り組みです」

■原料の小豆にこだわり続け、民間としては初という品種改良に踏み切りました。

 「長年使っている『エリモショウズ』は味や香り、色目に優れ、均等に煮える一方、病気への抵抗性がなく、生産量が減っていました。私たちの求める小豆がなくなってしまう危機感から、2005年に関連会社と共同で開発に着手しました」

 「交配して、何世代も育てながら病気への強さ、育てやすさ、収量、味や加工のしやすさなどを確かめ、12年ほどかかって、やっと新品種『紫さやか』にたどり着きました。豊かな甘み、やさしい風味で病気にも強い。18年から一定規模で作付けを始めました。期間限定で製品化したところ、お客さんからマイナスの意見は聞かれず、『おいしい』『次はいつ?』との反応。社内で議論を重ねた上での販売でしたが、ほっとしました」

■全国区の知名度を誇る家業を継ぐことに、プレッシャーや迷いはなかったですか。

 「3人きょうだいの末っ子で、小さいころから友だちに『継ぐんか?』と言われてきましたが、その気はありませんでした。建築が好きで、建築士になるつもりでした。学校を出て建築事務所に勤めましたが、ほかのきょうだいが継がないと言うので、ほかの人がするなら、と決めました。父から『帰ってこい』と言われたことはないです。しかし、初めは何をすればいいか分からず、しんどかった。父は小豆文化の創造を志して、ミュージアムをつくりました。そこは引き継ぐとして、それだけでいいのか、と悩みました」

■5年ほど前、店の看板とも言える包装紙を変えることになり、担当を任されたそうですね。

 「印刷会社に案を出してもらったんですが、ピンとこない。うちらしくないというか。で、思ったんです。『御座候らしさって、何やろ』。ちょうどそのころ、染色家の芹沢●介さんの型染め展を見に行きまして。明るい色合いの文様で着物やびょうぶ、のれんなど、日常の暮らしを彩る作風に心を打たれました」

 「芹沢さんが影響されたのが、柳宗悦さんの『民芸運動』でした。無名の職人が生み出す、民衆の生活道具に美を見いだす考え方で、その特性として、実用的▽多作▽安価▽労働で技術を熟練▽地域色▽複数人で共同作業▽伝統-を挙げていました。まさに御座候やないか。原料、製法に妥協せず、一つずつ心を込めて焼いた手仕事のぬくもりを届ける。この考え方に間違いはないと確信し、包装紙は芹沢さんのお弟子さんにお願いして、16年に刷新しました」

■社内の人材育成を強化していると聞きました。

 「『あずき検定』は生産や加工、文化的背景、栄養などの筆記と、ミュージアムをガイドする実技に合格すれば、級別で認定します。4月には、本社近くに新設した研究所内に実際の販売店を再現し、サービスの研修を充実させています」

 「熟練の職人は、技能だけでなく人間的にも豊かです。御座候も、日本の手仕事の一員となりたい。手仕事の建物や家具、器、行き届いたもてなしで、御座候を味わっていただくような喫茶を考えています」 【やまだ・そうへい】1986年兵庫県姫路市生まれ。京都建築大学校建築科卒。2009年にいったん東京の建築設計会社に入ったものの退社、同年に御座候に入社する。代表取締役専務などを経て、19年12月から現職。 ◇記者のひとこと 白あんは苦手だったが、原料の品種変更後に食べたら大好きになったそうだ。「おやつに御座候? 母が買ってきた時くらいです。姫路の一般家庭並みでしょ」。商品と同じ飾らない語り口にひかれ、また買いに行く。 ※編注=●は金へんに「圭」