地震の教訓生かす 災害時電源にEV活用――全国SDGs未来都市ブランド会議 3

枡田 一郎・熊本市環境局環境推進部環境政策課長(左)と大神 希保・日産自動車株式会社 日本事業広報渉外部担当部長

自治体と企業の連携による最先端事例を紹介する「全国SDGs未来都市ブランド会議」のリレー・トーク。2つ目のテーマは、「防災」。2016年に発生した熊本地震の教訓をもとにライフラインの強靭化に本気で取り組む熊本市と、日産自動車の連携による電気自動車(EV)を活用した持続可能なまちづくりが発表された。今あらためて見直されるEVの価値とは。
(廣末智子)

【ナビゲーター】
青木 茂樹 ・サステナブル・ブランド国際会議 アカデミックプロデューサー)

【パネリスト】
枡田 一郎・熊本市環境局環境推進部環境政策課長
大神 希保・日産自動車株式会社 日本事業広報渉外部担当部長

熊本地震直後、同市のライフラインは、最大約32万6千世帯で水道が止まり、約27万8400戸で停電、ガスは約10万900戸で供給が停止した。電気は二日ほどで復旧したものの、水道とガスはひと月以上途絶え、11万人を超える避難者が出た。当時の状況を枡田課長は「行政は何日も大混乱するばかりだったが、地域の方々がお互い様で助け合う姿を目の当たりにし、地域力の重要性を認識した」と振り返り、震災を機に、市を挙げて防災減災のまちづくりが進んだ過程を説明した。

この取り組みで同市は2019年のSDGs未来都市、そして自治体SDGsモデル事業に。日産グループとは同年、「EVを活用した持続可能なまちづくりに関する連携協定」を締結し、非常時の電源確保の観点から市内の避難所19カ所に日産のEV試乗車を派遣するプロジェクトなどを進行中だ。

その日産は、「EVを活用した街づくりへの貢献」をテーマに日本各地の地域課題に取り組む、日本電動化アクション「ブルー・スイッチ」を展開中で、現在、熊本市を含む26の自治体と災害連携を推進している。大神部長によると、熊本市との連携は、同市が、低炭素都市の街づくりとともに、震災の教訓を生かしたライフラインの強靭化を目指していることに着目し、「その2つを掛け合わせたところに、日産のEVは何ができるか」という発想で進めたという。

会場に展示された日産「リーフ」の実車。車体前方のボンネット部から伸びるコネクタを通じ、車両から外部に給電する

日産が電気自動車リーフを発売し今年で10年。この間、EVの航続距離は3倍に伸び、充電網も広がった。さらに最新型には62 kwhと大容量バッテリーを搭載しており、これは「スマホが一気に6000台以上充電でき、一般家庭の4日分の電力を賄える」電力に当たる。また昨年11月末時点の国内販売台数は13.2万台で、「約50万世帯分の1日の電力量を有する」までになった。そうした技術革新と普及拡大を背景に、「単なる移動手段ではなく、エネルギーインフラの一部を担うことができるのではないか」と日産自身がEVの「走る蓄電池」としての価値に期待を高めているところだ。

プロジェクトの内容は、避難所に配備したEVを電源として利用するほか、ごみ焼却施設の電力を活用したEV充電拠点を設置し、非常時に途切れない電力供給を実現する、また平時にはEVの普及促進による市民の環境意識の向上を図る、というもの。車を一つのバッテリー電源とみる斬新な取り組みで、「いざという時に試乗車が避難所に駆けつけるための、電力システムを算出したスキームづくり」が要になっている。

リレー ・トークでは両者が、まずは自治体が課題を明確に示し、企業はそのビジョンを理解した上で、具体的なニーズや困りごとを把握することから連携を始めることの重要性を強調。「熊本市の向かうべき方向とゼロエミッションを目指す日産の方向が一緒であることや、私どもの本気度も大きかった。企業との連携を通じて、思いがけない課題解決に結びつくことがあると実感している」(枡田課長)「単なる共助ではなく、熊本市の自助を促進するような取り組みにつなげた。震災の実体験に基づく熊本市の事業は非常に他の自治体の参考になっており、これを水平展開していくことは企業としての使命。1つの共通のベクトルに向かって熱い思いをぶつけ合い、真の同志というところにつなげていくことが自治体と企業の連携においてはとても大事と思っている」(大神部長)などと語った。

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