データサイエンスで、150年の歴史に新しい1ページを【立正大学】

[(https://univ-journal.jp/column/202042819/top_0722/)

文理融合で「現場で活躍できるデータサイエンティスト」を育成

「『モラリスト×エキスパート』を育む。」を教育ビジョンに、2022年に開校150周年を迎える立正大学。その記念すべき年に一年先駆けて設置を予定しているのがデータサイエンス学部(仮称)。大量に収集したデータを、進化した情報技術によって様々な角度から分析、社会の諸課題の解決に役立てようという情報科学の新しい枠組みに特化した学部で、政府のSociety 5.0構想や、『AI戦略2019』の掲げる教育改革とも歩調を合わせる。新学部について、学部長予定者の北村行伸先生に、設置の背景、目指すところ、求める人材像などに加えて、新学部開設にかける意気込みについても語っていただいた。

[(https://univ-journal.jp/column/202042819/0722riscolumn_01/)

国の教育改革を先取り

新学部の開設構想を聞かされ、参画を打診されたのは約1年前。日本の高等教育はデータサイエンス分野において欧米に遅れをとっていて、何とかしなければならないと常々思っていたため、共鳴するところも多く、快諾させていただきました。そこから教員募集、カリキュラム作成まですべてに情熱を傾けて取り組んでまいりました。

学長の吉川洋先生※1とは、政府や日銀の研究会等でよくご一緒させていただき、気心も知れていたのがご縁の始まりです。吉川先生は、政府の統計に関わってこられた経験から、日本は統計部門が弱いことをかねがね指摘されていて、データというエビデンスによる政策立案の必要性を訴えてこられました。

この間、世界のビジネスは、GAFAに象徴されるデータプラットフォーマーが、インターネット上で情報を集め主導権を握りつつあり、日本もそれについて行かざるをえない状況になっています。たしかに日本はこれまで、たくさんのデータを保有しながら、国も企業もその価値に気づかず使えてこなかった。しかしこのあたりで頭を切り替え、それらの有効活用を図ることが急務となっています。そこからは新しい価値が生まれる可能性があり、日本独自の強みを発揮できるかもしれないからです。吉川学長の言葉を借りれば「価値創造」ということになりますが、新学部としてもその一端を担いたいと考えています。またそのための人材養成については、政府主導により大学全体で始まろうとしているデータサイエンス教育※2に加え、学部で集中して育てることにもチャレンジしたい。学園としても、今の時代に新学部を作るとしたらデータサイエンス教育に特化した学部が最適ということで開設が構想されました。

※1:2019年から第34代学長。経済学者、東京大学名誉教授。

※2:『AI戦略2019』の掲げる教育改革では、「文理を問わず、全ての大学・高専生(約50万人卒/年)が、課程にて初級レベルの数理・データサイエンス・AIを習得」とある

文理融合で社会課題を解決。幅広い分野の実践的専門科目が特徴

ではどんな特長を打ち出すのか。日本でもここ1、2年で、従来の情報系学部ではなく、データサイエンスをキーワードに、まとまった教育・研究組織を作る動きが始まりました。すでに国、公、私立それぞれ1校が立ち上がっていて、私たちでおそらく国内で4番目。私立大学としては2番目になります。

ただ、先行する各大学がいずれも理系(自然科学系)からのアプローチが中心なのに対して、本学は文系(人文・社会科学系)からのアプローチも可能とし、学際領域、応用に近い分野に軸足を置き、社会での活用をより意識した《キャリアにつながるデータサイエンス》が学べることを特長とします。定員も240名と多く、これまでの本学の学生のプロフィールから、データサイエンスを身につけ社会を中堅で支える人材育成をイメージし、理系だけでなく、文系の学生も受け入れることにしました。

専門科目は数学、プログラミング、アルゴリズム、インターネットの仕組みなどを学ぶ「データサイエンス基礎科目」と「データサイエンス発展科目」で、後者は《ビジネス》《観光》《社会》《スポーツ》をはじめとした様々な分野(写真)を対象とした「価値創造基礎科目」と「データサイエンス実践科目」からなります[図1]。情報学を究めることももちろんできますが、データサイエンスの専門家を目指すわけではないという学生には、自分の興味のあるテーマ、目指す進路、解決したい課題にあわせて、データサイエンスを活用して、「価値創造」にチャレンジしてもらいます。

[caption id="attachment_42830" align="aligncenter" width="650"]

[(https://univ-journal.jp/column/202042819/0722riscolumn_02/)

[図1][/caption]

もちろんデータサイエンスは社会のすべての分野とかかわりますから、卒業後の進路はあらゆる分野、職種が対象となります。目指すのは、現場に近い、現場で役立つ、それぞれの職場で必要なプログラム、オンライン環境をサポートできる、まさに《現場で活躍するデータサイエンティスト》。図2でいえば★印の、「データサイエンス課題解決ができる人材」に位置付けられる、今後最も不足すると考えられる層です。

[caption id="attachment_42829" align="aligncenter" width="650"]

[(https://univ-journal.jp/column/202042819/0722riscolumn_03/)

[図2][/caption]

教員も、総務省統計局、内閣府、日本銀行などの中央官庁・中央銀行OBや、シンクタンク、各分野のビジネス経験者などを新たに加え、元々の各分野の専門家とともに、データサイエンス以外の実務家も充実させます。

立正大学に新しい風を。大学としてアフターフォローにも力を入れたい

これは私の個人的な意見ですが、学部教育では教育が重要だとされますが、よく背中で教えると言われるように、教員が研究力、実践力を高めることも極めて重要です。研究室に閉じこもって地道に研究を深め、コツコツ教育するだけでなく、研究成果を社会にアピールしたり、ビジネスを立ち上げるなどして、積極的に社会への情報発信に努めてほしい。教員の社会的な認知が高まれば、学生のモチベーションも高まりやすく、結果的にそれが教育の質を高めるのだと思います。

本学は、150年の伝統を持つ数少ない大学で、学生もまじめです。しかしこれから新学部が育成するのは、デジタル社会の最前線で活躍する人材ですから、多少型破りであっても粗削りであってもいいと思います。卒業後は、企業家を目指したり、新しいビジネスを立ち上げたり、あるいは転職を恐れず、新興の中堅・中小企業へも積極的に飛び込んでいくなど、失敗を恐れず何事にもチャレンジしてほしい。

大学もそのためのバックアップを惜しみません。新学部は熊谷キャンパスに開設されますが、都心の品川キャンパスには来春、国の求める全学的なデータサイエンス教育をサポートしながら、全学的にデータサイエンス研究を推進するためのデータサイエンスセンター(仮称)を設置予定です。技術の進歩は早いですから、卒業した後も大学に戻り、新しい情報、知識を得、新しい技術についても学び直したり、実務の現場でいかすことのできる仕組みも作りたいと思っています。

2020年の本学キャッチフレーズは「変化→自信→成長できる大学」。変化が全ての始まりであるとしていますが、デジタル社会を先導する人材を育成する新学部には、立正大学全体に変化を引き起こす役割もあると思っています。

データサイエンス×価値創造の分野例

■ビジネス

[(https://univ-journal.jp/column/202042819/0722riscolumn062/)

ものづくりの現場や市場、流通などの過程で収集されるビッグデータの分析から、新しい視点での問題解決やこれまでにないビジネスモデルを創出する。

■観光

[(https://univ-journal.jp/column/202042819/0722riscolumn052/)

携帯電話の位置情報や購買記録、SNSの投稿など、旅行者の提供する膨大な情報を分析し、観光産業を牽引。新たな観光スポットやニーズを開拓し、新しい観光産業の発展や地域の活性化につなげる。

■社会

[(https://univ-journal.jp/column/202042819/0722riscolumn042/)

気象や地理に関するデータや国の統計データをはじめ、各種データを活用し、環境、経済、医療、教育、交通など、社会の様々な課題解決を図るとともに、インフラや防災計画等、公共政策の充実に貢献する。

■スポーツ

[(https://univ-journal.jp/column/202042819/0722riscolumn072/)

AI・IoTなどの最先端技術で選手の動きやコンディション、チーム状況に関するデータを解析・活用し、プレーの質向上やまったく新しい戦術の開発など、スポーツ界をデータサイエンスでさらに発展させる。

[(https://univ-journal.jp/column/202042819/0722riscolumn_profile/)

学部長就任予定者 経済学部教授

北村 行伸 先生

慶應義塾大学経済学部卒業。オックスフォード大学大学院修了(D.Phil. in Economics)。オックスフォード大学研究助手、慶應義塾大学大学院客員助教授、一橋大学経済研究所教授・所長等を経て、2020年4月より立正大学経済学部教授。一橋大学名誉教授、総務省統計委員会委員長、日本学術会議第1部会員、日本銀行金融研究所研究員、財務省財務総合政策研究所特別研究官などを兼務。県立千葉高校出身。

投稿 データサイエンスで、150年の歴史に新しい1ページを【立正大学】大学ジャーナルオンライン に最初に表示されました。

© 大学ジャーナルオンライン