コロナ禍に打ち克つためにできること 第6回 テレワークが日本経済の構造改革の起爆剤に

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新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、テレワークを実施する企業が増えています。この流れは今後の感染動向にかかわらず、「ウィズコロナ」と「アフターコロナ」においても続くものと見られます。それは、感染拡大防止対策にとどまらず、日本の経済構造をも変え得るインパクトを持ち始めています。

テレワーク経験者の約70%が「コロナ収束後も続けたい」

まず最近のテレワークの状況について見てみましょう。人材紹介・派遣大手のパーソル・グループが緊急事態宣言解除後の5月29日~6月2日に全国就業者2万人を対象に行った調査によりますと、テレワークの実施率は25.7%でした。中でも東京都は48.1%で、半数近くがテレワークを実施している結果となりました。

これは、緊急事態宣言(7都府県)発令直後の4月調査(4月10~12日調査実施)と比べると全国で2.2ポイント低下、東京都でも1.0ポイント低下しています。しかし、緊急事態宣言解除後の数字にしてはテレワーク実施率の低下は小幅にとどまったと見ることができます。宣言が解除されても通常出社に戻した企業は意外に少なかったと言ってもいいでしょう。

こうしたことから、今後の感染状況によって多少の変動は予想されるものの、テレワーク拡大という大きな流れは続くと見たほうが良さそうです。パーソルの調査でもその可能性が強く表れています。

同調査では、テレワークを実施した人に対し「コロナウイルスが収束した後もテレワークを続けたいですか」と聞いたところ、69.4%の人が「続けたい」と答えていました。4月調査の53.2%から大幅に増加しています。特に、女性・若年層ほど希望率が高くなっているのが目を引きます。

この結果は、実際にテレワークを経験してみたうえで継続を希望する人が増えていることを示しています。コロナが収束した後でもテレワーク拡大の流れは続くでしょう。

テレワークがもたらす構造変化(1)--働き方改革

このようなテレワークの拡大によって、日本経済に新しい変化が表れ始めています。それは、働き方改革と雇用制度の改革、あらゆる分野でのデジタル化の加速、そして東京一極集中緩和の可能性の3つです。

まず第1の働き方改革と雇用制度の改革について。テレワーク拡大は単に自宅などで仕事をする人が増えるだけでなく、働き方が多様化することを意味します。テレワークと言っても完全な在宅勤務だけでなく、週に1度や2~3日の出社もあるケース、出社にも時差出勤やフレックスタイムもあるという具合に、仕事の状況によって変化することも可能になります。

多くの日本企業は勤務時間をもとに賃金を支払う給与体系を採用しており、経営者や管理職社員の中には「家できちんと仕事しているかがわからない」として、平時でもテレワークを実施することには消極的な声もあります。しかし会社にいても効率よく仕事をしているとは限りません。会議ばかりで結論を先延ばしなどというのもよく聞く話です。要はどのように仕事をして成果を出したかが重要なのです。

そもそも毎朝の通勤地獄から解放されることのほうが、精神的にも肉体的も楽で、仕事の能率が上がるなどの声がありますし、家族と一緒に過ごす時間が増えるなど、いわゆるライフ・ワーク・バランスの観点からも望ましいはずです。在宅勤務が増えれば単身赴任をしなくて済むケースも増えそうです。まさに真の働き方改革と言えるのではないでしょうか。

したがってテレワーク拡大のためには、雇用制度も変えていく必要性が出てきます。実際、平時においてもテレワークを前提に社員の待遇や雇用制度を変える企業が続々と登場し始めています。

日立製作所は国内の社員の約7割に当たる2万3,000人を対象に、週2~3日の出社でも効率的に働けるようにするとともに、職務内容を明確にして成果で評価する人事制度に移行すると発表しました。新制度は「何時間働いたか」ではなく「どのような成果をあげたか」を尺度とするもので、「ジョブ型」と呼ばれます。

富士通もジョブ型を導入しますが、併せて通勤定期代の支給を廃止し、代わりにテレワークの環境整備費用として社員に月額5,000円を支給します。クボタはやTOYO TIREは研究開発部門を対象に社員の自宅からでも設計業務や性能実験ができるようにしました。

テレビ東京が出社率2割以下を達成したことは本連載で以前に紹介しましたが()、その後、平時においても出社率50%継続という新たな方針「リモート50」を打ち出し、そのために中長期的な業務の見直しを進めています。

このようにテレワークはさまざまな業種や職種に広がりつつあります。もはや「コロナ感染拡大防止」の次元を超えて、新たな働き方をめざす取り組みと言えるでしょう。テレワーク導入当初は効率が落ちたといった指摘もありますが、中長期的には生産性の向上にもつながることも期待できそうです。

テレワークがもたらす構造変化(2)--デジタル化の加速

第2の変化はデジタル化の加速です。テレワークの導入自体がデジタル化であるわけですが、それにとどまらず会社の業務全体のデジタル化に広がります。

インターネット事業のGMOグループは顧客向けサービスや取引先との契約で印鑑を廃止し、すべて電子契約に変えました。従来は書類に印鑑を押すために社員が出社しなければなりませんでしたが、電子化することで出社を減らすことができます。また従来は2~3週間かかっていた契約締結業務を数分に短縮できます。これらは自社だけでなく取引先企業の業務改善にも役立つわけです。

さらにテレワークの拡大は関連のIT製品やサービスなど新たな需要も生み出します。第一生命経済研究所の4月上旬時点での試算では、1.3兆円の特需が発生しているとしています。またテレワーク実施率が約40%まで拡大した場合は1.9兆円が見込めるとも試算しています。

これはあくまでその時点での直接的な需要額をはじいたもので、今後テレワークがさらに普及し長期化すれば、その経済効果はもっと高まることが予想されます。

さらに今回のコロナ禍を機に、テレワークだけでなく、医療や教育、さまざまなイベントなどのオンライン化も拡大し、社会全体のデジタル化が進むと予想されます。それによる新たな技術やサービス、ビジネスも拡大し日本経済の牽引車となるでしょう。

テレワークがもたらす構造変化(3)--東京から地方へ

第3は東京一極集中が緩和される可能性です。前述の富士通はもう1つ、国内のオフィススペースを今後3年で半分に減らすという思い切った方針を発表し、産業界を驚かせました。同社は全国で約60カ所の事業所を保有し約380カ所を賃貸契約しており、オフィス面積は合わせて120万平方メートルに達しますが、テレワークを増やすのだからオフィスは半分でよいというわけです。「テレワーク拡大はもう後戻りできない」ことを物理的に宣言したと言っていいでしょう。

このほか、東京本社オフィスの縮小と並行して、近郊や地方都市にサテライトオフィスを拡充する企業の動きも見られます。こうした動きが広がれば、地方でも雇用の機会が増えることになります。

内閣府の調査によると、テレワーク経験者の24.6%が「地方移住への関心が高くなった」と答え、テレワーク未経験者(通常通り勤務)の10%と比べて格段に高くなっています。特に注目されるのが、20歳代の東京23区居住者(経験者・未経験共通)では35.4%に達していることです。地方志向は思った以上に強まっていると見てよさそうです。

これらによってすぐに東京一極集中が「是正」されるわけではありませんが、多少なりとも一極集中の「緩和」に役立つ可能性があるでしょう。短期的には東京の不動産市況を悪化させると心配する声もありますが、長い目で見れば地方の活性化につながることも期待できます。それは日本経済の裾野を支える力を強くすることにもなるのです。

課題は解決できる!--経営者と管理職の意識改革がカギ

以上の3つの要素は「アフターコロナ」の時代の日本経済が進むべき方向を示唆しています。今はまだ構造変化が緒についたばかりですが、長期的視点でその芽を育てていく必要があります。

ただそうは言ってもテレワークにはまだまだ解決すべき課題が多いのも事実です。前述のパーソル総合研究所の調査でテレワーク実施率が25.7%でしたが、言葉を換えれば「実施率はまだ4分の1」ということです。

同調査によると、テレワークを実施していない理由(複数回答)で最も多かったのが「テレワークで行える業務ではない」(52.9%)でした。次いで「テレワーク制度が整備されていない」(34.6%)、「テレワークのためのICT環境(機器、システム)が整備されていない」(14.6%)などとなっています。このほか、「会社がテレワークに消極的」(8.1%)、「押印や書類準備などに出社が必要」(6.6%)、「上司が消極的」(4.5%)などの答えもあります。

またテレワーク実施者からは「非対面のやりとりは相手の気持ちがわかりにくい」、「上司から公正な評価をしてもらえるか」などの不安の声が寄せられており、導入当初は不慣れによるコニミュニケーション不足や効率の低下が起きることなども指摘されています。

しかしこれらの多くはテレワークを継続していなく中で解決・改善できるはずです。むしろ問題は、上記の「会社や上司がテレワークに消極的」との答えにあるように、経営者や管理職がテレワーク実施について真剣に検討しないまま通常勤務を続けているケースが少なくないと思われることです。テレワーク拡大のカギは経営者や管理職者の意識改革にあるのかもしれません。

テレワークを機に会社の働き方や業務の効率化を図り、経営のあり方も変えていくことが、コロナ禍の厳しい経済環境を乗り越える力にもなるのです。

筆者プロフィール: 岡田晃(おかだあきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。