世界最高峰の戦いに終わりなし。厳しい状況下では「一体感が生まれ、人も育つ」/ホンダF1山本MDインタビュー(2)

 レッドブル・ホンダとして2年目のシーズンとなった2020年。チャンピオンに挑む戦いを期待していたものの、3連戦で1勝もできないまま終わった。

 現状についてフェルスタッペンは次のように語っている。

「いまは本当にトリッキーな状況で、何が問題なのかを理解するのが難しい。いろんな変更を行って様々なことを試してみたけど、何をやってもうまくいかない。アンダーステアにオーバーステア、そしてグリップ不足。それにトップスピードもあまり出ていない。そういったことすべてが関係して、こういう結果になっている」

 思うような成績が挙げられないと現在のレッドブル・ホンダの雰囲気はどうなのか、また2020年のF1は今後どうなっていくのかついて、ホンダF1の山本雅史マネージングディレクターに引き続き聞いた。

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──開幕3戦の結果を経て、レッドブルからホンダに対するプレッシャーはありますか?

山本雅史マネージングディレクター(以下、山本MD):ないです。私はグランプリ期間中、毎朝マルコさんとクリスチャンとコーヒーを飲みながら、サポートレースを見ているのですが、逆に「いま少しシャシーがバタバタしているから、(ホンダの)パワーで補ってほしい」とお願いされています。

──具体的に、どうやってパワーで補うんでしょうか。

山本MD:浅木と田辺と私で、いろいろと話し合いをしています。現場ではもちろん、田辺と毎日話をしていますし、現在新型コロナの影響で浅木は現場に来ることはできませんが、昨日(7月18日)も一昨日も電話で浅木と話し合っています。個人的にはレースは攻めないとシリーズは戦えないし、チャンピオンも獲れないということは国内のモータースポーツで十分勉強させてもらいました。

2020年F1第3戦ハンガリーGP サーキットに到着したホンダの山本雅史MDと田辺豊治F1テクニカルディレクター

──ハンガリーGPからイギリスに帰った後は、どのような対応を行うのでしょうか。隔離などはあるのですか。

山本MD:イギリスでは7月10日から2週間の自主隔離がなくなったので(※1)、もう自主隔離は必要なくなりました。ただ、引き続きミルトンキーンズにあるHRD UK内では田辺を中心に必要な対応がとられています。

(※1)イギリス政府は、ハンガリーなど59カ所と在外英領14カ所からイングランドに到着する人に対する、2週間の自主隔離の不要を7月10日から実施している。

──ハンガリーGPが終了した時点では、10戦目のロシアGPまでしか発表されていませんが、その後はどうなると思いますか(※2)。

山本MD:私の耳にも、今後は中国、ポルトガル、イモラ(イタリア)、ドイツとか、バーレーンでコースレイアウトを変えて2戦やるとか、アブダビなどでレースを行う方向で話が進んでいる話は入っています。

(※2)インタビュー後、7月24日にニュルブルクリンク、ポルティマオ、イモラでの開催が発表された。

──有観客レースの話は出ていないのですか。

山本MD:私の耳には入っていません。ただ、フライアウェイラウンドに関しては、FOMは観客を入れてやりたいと言っていて、鈴鹿に対してもそうだった。鈴鹿に関しては、そのあたりで折り合いがつかずに断念したわけですが、フライアウェイラウンドは観客を入れるというのがFOMの基本的な意向だと思っています。

──無観客レースの雰囲気は?

山本MD:驚くぐらい、人がいない(笑)。たとえば、(チケットが売られていないので、スタンドにいないのはわかりますが)ゲートの前とか、もう少しファンが駆けつけたりするのかなと思っていましたが、まったくいないです。

 私たちが泊まっているホテルもほとんど観光客を見かけません。朝食会場もレッドブルの貸し切り状態。ほかのお客さんは別の個室に分けられていました。

2020年F1第1戦オーストリアGP レッドブルリンク

──PCR検査は?

山本MD:最初は2日に1回と言われていましたが、さすがにそれは無駄なので、5日に1回となりました。ただ、オーストリアからハンガリーに移動するときは、直前に1回やって入りました。鼻の奥と喉の奥の2カ所の粘膜を取るんですが、鼻のほうは本当に痛くて、鼻血を出す人もいます。

──陽性が出ましたが、動揺は?

山本MD:動揺はないです。ただ、サーキットのセキュリティの数がオーストリアに比べるとハンガリーは多かったですね。

──いまスペインでは再び感染者が増加していますが、それでもF1は予定通りレースを行っていくんでしょうか。

山本MD:コメントするのは難しいですが、われわれとしてはFIAとFOMの判断を尊重し、レースを成功させるために、全力で戦いますとしか言えません。ただ、私たちレース関係者の衛生管理は徹底されていて、今後サーキットで陽性者が頻繁に出るようなことはないと思っています。

 むしろサーキットの外の人たちはほとんどマスクしていません。オーストリアは公共機関ではマスク着用が義務付けられていましたが、ブダペストでは5%ぐらいしかマスクしていませんでした。

──ファンからのメッセージは何かありましたか。

山本MD:今日も2位でおめでとうというメッセージが届きました。日本も新型コロナウイルス感染の拡大がいまだに収束せず、大変な時期なので、レースで私たちに元気を与えてほしいというものもありました。本当に感謝です。

 われわれとしては、開幕3連戦を終えて、レッドブル・ホンダとアルファタウリ・ホンダが全体の中でどの位置にいるのかということが見えてきたということは、今後を戦ううえでポジティブなことだと思っています。だれひとり、あきらめていません。

──新型コロナによる影響で、いつもと違うシーズンとなったわけですが、何が一番辛いですか。

山本MD:連戦が多いので、エンジニアやメカニックは本当に大変だと思います。また世界最高峰のF1では戦いに終わりがないということも痛感しました。ただ、このような厳しい状況のおかげでチームにはいつも以上に一体感が生まれているし、人も育ちます。そういう点では(今回の変化も)ポジティブにとらえています。

2020年F1第3戦ハンガリーGP レッドブル・ホンダのメカニック

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