新型ウイルスと抗マラリア薬、使用勧める動画拡散で議論再燃

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クリストファー・ジャイルズ、シャヤン・サルダリザデ、ジャック・グッドマン

BBCリアリティ・チェック(ファクト・チェック)、BBCモニタリング

拡散されていたある動画を複数のソーシャルメディア企業が取り下げたことで、抗マラリア薬「ヒドロキシクロロキン」の使用をめぐる激しい論争が、アメリカで再燃している。

きっかけとなった動画では、「America's Frontline Doctors」(アメリカの最前線で活動する医師たち)というグループのメンバーらが、新型コロナウイルスによる感染症COVID-19の予防および治療法として、ヒドロキシクロロキンを使用することを推奨している。

世界保健機関(WHO)は、ヒドロキシクロロキンがCOVID-19の治療あるいは予防に有効だとは「現時点では証明されていない」としている。

この動画は、右派系オンラインプラットフォーム「ブライトバート」(Breitbart)がオンライン放送したもので、フェイスブック上で1700万回以上視聴された。また、ドナルド・トランプ米大統領とその支持者の多くがツイッターでシェアした。

トランプ大統領の長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏もツイッターに動画を投稿した。これを受けて、ツイッターは同氏のアカウントを12時間、ツイートできないようにした。

動画は何を主張しているのか

この動画は、America's Frontline Doctorsによる「白衣」サミット初日の45分間のライブストリームで、ブライバートがフェイスブック、ツイッター、ユーチューブに投稿。瞬く間に拡散された。

動画の中では「新型ウイルスには治療法がある。それはヒドロキシクロロキン、亜鉛、ジスロマックだ」と、医師の1人が主張している。

「マスクをする必要はない。治療法があるんだから。彼らが学校を開きたくないのはわかっている。人を閉じ込めておく必要なんてないのに。予防策も治療法も存在する」

フェイスブックに投稿された動画も数百万回もの視聴回数を記録。取り下げられるまでに60万回近くシェアされた。

ハッシュタグ「ヒドロキシクロロキン」は15万3000回以上ツイートされ、一夜にしてアメリカのツイッターのトップ・トレンドの1つになった。

この動画の複数のバージョンが、ソーシャルメディア上で広く共有され続けている。

フェイスブックが所有するソーシャルメディア分析ツール「クラウド・タングル」(CrowdTangle)のデータによると、ヒドロキシクロロキンという言葉を含む過去24時間の公開投稿は、動画の複数のバージョンが削除されたにも関わらず、660万回のエンゲージメント(いいね、シェア、閲覧、コメント、反応)を獲得した。

ツイッターはBBCニュースに宛てた声明で、「当該動画に関連するツイートは、当社のCOVID-19に関する偽情報防止方針に違反している。我々は当社方針に従い、措置を講じている」と述べた。

フェイスブックは、「COVID-19治療に関する偽情報をシェアした当該動画を削除した」とBBCに回答。ほかの複数のバージョンについても削除していると認めた。

ユーチューブは、「当社のCOVID-19に関する偽情報防止方針に違反したため、当該動画を削除した」とBBCに述べた。

BBCニュースは動画をこれらのプラットフォームに投稿したブライトバートのほか、ホワイトハウス、ライブストリーミングを行ったAmerica's Frontline Doctorsにもコメントを求めている。

ヒドロキシクロロキンの有効性に関する証拠は

マラリアの治療薬として知られるヒドロキシクロロキンをめぐっては、トランプ氏が今年3月に初めて使用を強く勧めた。

WHOは、「複数の治験が進行中ではあるものの、現時点でヒドロキシクロロキンや他の薬でCOVID-19を治療あるいは予防できるということは証明されていない」としている。

また、「使い方を誤れば、深刻な副作用や健康への影響を引き起こし、死に至る可能性さえある」と付け加えた。

英オックスフォード大学の研究では、入院患者にヒドロキシクロロキンを投与したが効果はなかった。

治療の初期に使用した場合や、予防薬としての使用したときの有効性とについては、今も研究が続いている。

複数の臨床試験ではこれまでのところ結論には達していない。ヒドロキシクロロキンが有効かどうか判断するには、より大規模な無作為研究の結果が必要となる。

米食品医薬品局(FDA)は今月、心臓に悪影響を及ぼす恐れがあるとして、ヒドロキシクロロキンを病院の外で使用しないよう警告した。

動画の医師は誰なのか

ライブストリーミングを行ったAmerica's Frontline Doctorsは、新型ウイルスのパンデミック(世界的流行)にまつわる科学的コンセンサス(合意形成)に批判的な医師の集団だ。

同グループのイベントは、今年11月の米大統領選でトランプ氏の再選を目指す保守派運動「ティーパーティー」の支援を受けて開催された。

同グループ創設者のシモーヌ・ゴールド医師は今年5月、新型ウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)をやめるよう求める書簡をトランプ氏へ送った。

参加者はアメリカ市民とつながる最善策として、ソーシャルメディアのインフルエンサーたちとのインタビューを行うよう奨励された。

ここ数カ月間、ソーシャルメディアではヒドロキシクロロキンをめぐり激しい議論が繰り広げられている。そして影響力のある米保守系メディアのフォックス・ニュースのキャスターたちも、この薬を支持する内容を報じている。

共和党のラルフ・ノーマン下院議員は、America's Frontline Doctorsが開催した記者会見で、同グループの医師らと並んで立っていた。

ヒドロキシクロロキンをめぐる論争は、政治的にアメリカをますます分断している。ヒドロキシクロロキン賛成派はトランプ大統領がこの薬を支持していると主張し、その有効性を隠ぺいしているとして反対派を非難している。


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