[大弦小弦]首里の馬

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 第163回芥川賞を受賞した高山羽根子さんの小説「首里の馬」(新潮社)が27日に全国発売され、県内での売れ行きも好調のようだ。沖縄が舞台であり、注目度も高い

▼県内の作家や書店からは、沖縄の持つ「場」の力を再評価する声も上がっている。「豚の報い」で1996年に芥川賞を受賞した又吉栄喜さんは「昨年の直木賞の『宝島』に続くいい傾向。沖縄にはアジアや世界につながる普遍性や特色、小説的土壌がある」と解説する

▼小説では、主人公の女性が島の資料館を手伝う傍ら、オンライン上でさまざまな国の人にクイズを出す奇妙な仕事を続ける。コロナ時代の交流のあり方を予見し、沖縄の歴史を通して何かを記録することの意味を浮かび上がらせる

▼高山さんは「沖縄は経済的、政治的な要素などいろんな意味で変化してきた場所が多い」と話す。物語の背景には、歴史に翻弄(ほんろう)されてきた沖縄がある

▼戦禍で失われた多くの人やモノ、時代と共に変わりゆく景色は元の状態には戻せない。しかし、その場所に刻まれた記憶をたどることはできる。高山さんは「記録することが希望になる」と強調する

▼沖縄戦の記憶の継承、首里城の再建にも、これまで蓄積してきた記録がカギになる。沖縄から発信される希望が、世界とつながれば。コロナ禍で本をめくりながら考える。(吉川毅)