「サッカーコラム」「テレビニュースの選手」から脱却した天才 リーダーとしての存在感が増すG大阪・宇佐美貴史

神戸―G大阪 前半、競り合う神戸・イニエスタ(右)とG大阪・宇佐美=7月26日、ノエスタ

 テレビニュースの選手―。そう呼びたくなる存在がたまにいる。短い時間内に編集されたニュース映像で見ると、素晴らしく見えてしまう選手のことだ。テレビのスポーツニュースは得点シーンを中心に構成されている。ゴールが決まるシーンというのは言うまでもなく、攻撃側がいいプレーをした結果だ。輝いていると感じても不思議ではない。

 テレビニュースを見て特定の選手に興味を持つ。その選手を目的にスタジアムに足を運んだところ、ニュースでの輝きはどこへやらほとんど何もせず落胆して帰ってしまうことがままある。

 このような選手はすごい才能を秘めているが、それが発揮されることはほとんどない。とはいえ、輝く場所がゴール前なのでテレビニュースに映し出される頻度は高くなる。

 宇佐美貴史。G大阪史上最年少の17歳14日で公式戦デビューを果たした天才児も、かつてはテレビニュースの選手だった。局面だけを切り取ったプレーのビデオを製作すれば怪物級。それを見た名門バイエルンが、19歳の宇佐美を獲得したのも納得できる。ただ、ドイツ・ブンデスリーガの4チームでプレーしたが、主役にはなれなかった。「90分の選手」ではなかったからだ。

 かつての宇佐美を一言で表現すると次のようになる。気まぐれな天才、だ。その宇佐美が28歳になった今、良い意味で明らかに変化している。攻守にわたって見違えるように献身的になった。そればかりか、G大阪のリーダーとしてチームを引っ張っているのだ。

 攻撃陣の中には前線からの守備を指示されているにもかかわらず、ごまかす選手がたまにいる。いわゆる「守備をしているふり」だけで終わる選手だ。その対極にいるのが、本気でボールを奪いにいく岡崎慎司。現在の宇佐美は、その岡崎に共通するプレーを見せることがある。

 スライディングタックルなんて最も似合わない選手だと思っていた。しかし、J1第5節の大分戦では、身を投げ出すタックルで相手ボールを刈って、アデミウソンの決勝点をお膳立てしている。ユニホームを汚すことは、宇佐美にとって当たり前のプレーになっている。

 7月26日のJ1第7節。3連勝中のG大阪と4戦負けなしの神戸が対戦した。試合というのは勝てば当然うれしい。その中でも、実力伯仲のチームに勝ちを収められると充実感も満たされる。その意味で2―0のクリーンシートという会心の勝利を収めたG大阪の喜びは、より大きかったのではないだろうか。

 チームスポーツなのだから、勝てば全員がヒーローと言える。それでも、特別な仕事をする選手が必ずいるものだ。G大阪のGK東口順昭はその極みだった。冷静にシューターの体の向きや足の運びを見極め絶妙のポジショニングを見せる。前半40分と後半31分、同35分と、神戸の危険人物・古橋亨梧に訪れた3度の決定機。それをことごとくファインセーブで弾き出す。これには古橋も東口に歩み寄り、たたえるしかなかった。

 「最後尾の門番」が奮戦すれば、前線が呼応するという好循環が生まれる。神戸戦のG大阪は理想的に点を重ねた。後半17分、右サイドからDF高尾瑠がペナルティーエリア左に走り込んだ小野裕二にグラウンダーの超高速パスを送る。「足もフラフラだった」だったという小野の右足シュートは、蹴る方の足ではなく軸足にボールが当たったことで予想もしないループシュートとなった。これが神戸GK飯倉大樹を惑わし先制点となった。

 先制されたとはいえ、好調な神戸もすぐに反撃する。どちらに転んでもおかしくない勝負の行方を決めたのは、宇佐美だった。この男がより輝くのは、やはり攻撃の場面だ。

 すごい弾道のゴールだった。後半41分、左サイドにいた井手口陽介がペナルティーアーク左寄りにいた宇佐美に横パスを出す。そのボールを受けた宇佐美はボールを右に一歩持ち出し、ワンステップで右足を振り切った。距離は25メートル。キャノン砲のようなシュートにGK飯倉もよく反応した。すさまじい勢いのボールは飯倉の手を弾いてゴール左隅に突き刺さった。

 「あの一発をわれわれは待っていた」。G大阪の宮本恒靖監督がそう評価したように、試合を決められる選手だけが持つ特別な一撃だった。25メートルの距離を安易に「ミドルシュート」という人が多いが、「ロング」だ。その距離を助走なしで強烈に射抜けるのは、日本選手ではそういない。

 ボールの威力はインパクトのスピードで決まる。宇佐美も膝下の振りが速い。加えて、ボールにより威力を伝えるために軸足を左側に傾けている。こうすると、蹴り足がより伸ばせる。結果、遠心力は大きくなる。柄の長いハンマーでたたいた方が威力は増すことと同じ原理だ。

 「足を振ることに迷いはなかった。コースも見えていたので」

 会見で宇佐美はそう語っていた。続けて「あれぐらいの距離を練習の後、ほぼ毎日」とも話した。4、5人でシュート練習を行っているというのだ。シュートだけでなくパスでも、その距離に届ける自信の裏受けがあるからこそ狙う。逆に自信がなければ、目標すら見ることはない。

 G大阪の至宝は、頼もしい存在に進化している。もはや、「テレビニュースの選手」ではない。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

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