世界経済「史上最大のV字回復」へ向かうが、日本は出遅れ懸念

新型コロナウイルスの感染拡大ペースの鈍化を受け、各国で徐々に経済活動が再開されています。感染再拡大を防ぐ規制が完全には撤廃されない中、経済はV字型でなくL字型の弱い回復にとどまるとの見方が一般的です。

しかし、実際の経済データは各国でL字型でなくV字型の回復を見せています。感染拡大が最初に始まった中国では、4〜6月期の実質GDP成長率が季節調整済み前期比+11.5%と、統計開始以来過去最大の伸びとなりました。水準で見ると1〜3月期の落ち込み(同▲10.0%)をわずか1期で全戻しするV字回復となっています。


中国はコロナ前の水準を上回る

米国では6月の小売売上が、GDP個人消費の基礎統計ベースで見て4月に前月比▲12%と大きく落ち込んだ後、5月は+10%、6月は+6%とV字どころかコロナ前の水準すら大きく上回りました。

かつてWHOに「パンデミックの中心」と言われた欧州でも、5月の時点で小売売上がそれまでの落ち込みの7割程度を回復するなどV字回復に向かっています。米国、欧州も7〜9月期には史上最大のGDP成長率を達成しそうです。

しかし6月中旬以降、米国では感染者数の増加ペースが再加速しており、「第2波」を懸念する声が上がっています。一方、死者数の増加ペースは、感染再加速から1ヵ月以上たった7月下旬になっても加速していません。陽性率も安定しており、全米ベースで見れば、現状の感染者数の伸びは「第2波」ではなく「検査件数の増加」を意味しています。

結果として厳格な行動制限の再導入には至っておらず、Google社のモビリティ指数(スマートフォンアプリなどの位置情報から滞在人数・時間を示す指数)を見ても、回復はやや足踏みしているものの低下もしていません。7月以降の米経済もスピードこそ5、6月に届かないものの、緩やかに回復していくのがメインシナリオでしょう。

<写真:長田洋平/アフロ>

日本の経済回復は他国より遅れる?

懸念されるのが日本の回復の遅れです。6月のサービス業PMIは4月の26.5から5月の45.0へと急速に回復した後、6月は45.2とほぼ横ばいにとどまりました。米国の49.6やユーロ圏の55.1を下回り、他の先進国と比べて日本経済の持ち直しが遅れる可能性が示唆されています。

6月下旬以降の感染数の再加速を受けて、東京都をはじめとした一部の自治体では首長が独自に外出自粛を呼び掛けており、7月22日から始まった政府の観光支援策「Go To トラベル」事業も盛り上がりに欠けるなど、経済再開の機運が急速にそがれています。

一方、感染再加速からほぼ1ヵ月たった7月下旬になっても重症者や死者の増加は緩やかで、政府は「医療体制がひっ迫する状況ではない(安倍首相)」と繰り返しています。WHOなどは気温低下による第2波に警戒を呼び掛けていますが、夏の経済再開が不十分なまま秋以降に医療体制のひっ迫をもたらすような本格的な第2波が到来し、再度の行動制限に踏み切らざるを得なくなった場合、V字回復どころか地方の中小飲食、観光業を中心に倒産が続出するおそれがあります。

新型コロナウイルスに対してはワクチンができる保証はなく、できたとしてもインフルエンザのようにある程度の被害は免れず、今後も流行と鎮静化を繰り返す可能性があります。「Withコロナ」がかなりの長期戦となる可能性も意識した上で、医療体制のひっ迫防止と経済活動の両立が求められます。

<文:ファンドマネージャー 山崎慧>

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