「性的暴力で終わらぬ苦痛」告発に金与正氏はどう動くか

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は28日、北朝鮮の拘禁施設で脱北に失敗した女性らに対する性的暴力の横行が続いていると告発する報告書を発表した。

北朝鮮の金正恩体制は、こうした人権問題で非難されることを最も嫌っている。金正恩党委員長の妹である金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長は今月10日に発表した談話で「(米国が)朝米関係の改善に先だって『人権問題』が『解決』されるべきだと喧伝してわれわれの『人権実態』に言い掛かりをつけた」と述べ、露骨に不快感を示した。

今回、OHCHRの報告書が告発した実態は以前から指摘されていたことだが、最近になって外交の前面に立つようになった金与正氏が、こうした非難にどのような反応を見せるかが気になる。

OHCHRは今回の報告書をまとめるに当たり、北朝鮮から逃れたあと2009年から2019年にかけて本国に連れ戻され、その後、再び脱出することができた脱北女性100人余りから北朝鮮国内での状況について聞き取り調査を行った。

調査に対し女性らは、連れ戻された後に保衛員(秘密警察)や保安員(警察官、現安全員)から性的暴行を受けたり、裸にされたり、堕胎を強要されたりしたと証言した。

また、拘禁施設の食糧事情や衛生状態は劣悪で、2015年に強制送還された女性によれば、「刑務所にいる間、5、6人が死亡し、そのほとんどが栄養失調によるものだった」という。

この日、韓国・ソウルで記者会見したOHCHRのダニエル・コリンジ担当官は、報告書の目的について「北朝鮮政府が状況を改善するよう圧力をかけたかった」としたうえで、関係各国は脱北者を北朝鮮に送還すべきではないと強調した。

一方、北朝鮮は国際社会から核兵器開発で非難されるよりも、人権侵害を追及されることにより強い反発を見せることもある。人権侵害の責任追及は究極的には最高指導者に向かうことになり、また、イラクで大量破壊兵器を発見できなかった米英が「人道的介入」をイラク戦争の大義名分として掲げたように、体制の存続そのものを脅かす危険があると見ているからだ。

今ではすっかり兄のスポークスマンとなった観がある金与正氏が今後、人権問題に対してどのように語るのかが興味深い。

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