命つなぐ道「早く復旧を」 多良木町槻木地区、熊本豪雨で県道崩落

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槻木地区と町中心部をつなぐ県道の崩落現場で、早期の復旧を訴える落合龍見さん=29日、多良木町
槻木地区唯一の松本商店で食料品や日用品を買い求める女性=29日、多良木町

 命をつなぐ道路、早く復旧して-。64世帯108人が暮らす熊本県多良木町の槻木[つきぎ]地区は、4日の豪雨で町中心部から唯一通じる県道の一部区間が崩落したため、“陸の孤島”と化した。宮崎県側からの迂回[うかい]ルートはあるが、片道2時間かかるため、極めて不便な生活を強いられている。

 「とにかく、早く車が通れるようにしてもらわんと困る」。農林業を営む落合龍見さん(61)は29日、県道の崩落現場を見ながら訴えた。同地区一帯は豪雨で、宮崎県側に流れる槻木川があふれ、道路の斜面が至る所で崩れた。家屋への被害はなかったが、土砂で埋まった地区内の道路は、住民自ら重機で土砂を除去した。

 町中心部から約20キロ離れた槻木地区へは県道を通って車で約40分。対向車と擦れ違うのが難しい狭い道が延々と続き、途中の1カ所が十数メートルにわたって大きく崩落した。軽い物資は、この崩落現場まで車で運び、山側に幅1メートルほど残った路面を慎重に歩いて反対側に運んでいる。

 公立多良木病院の槻木診療所が毎週実施していた診察は中断。電話で診察した医師が処方した薬を、この崩落現場で診療所のスタッフが受け取り、各世帯に配っている状況だ。同地区の簡易郵便局も休業している。

 一方、槻木地区から宮崎県側に迂回するルートは二つあるが、いずれも急斜面の土砂崩れや道路の崩落が多発。比較的道幅の広い宮崎県小林市ルートは1カ所が完全に崩落し、29日夕に迂回路が開通したが、同市の最寄りの商店まで30キロ以上離れている。

 槻木地区の高齢化率は85%で、車を運転しない住民も多い。そんな高齢者の暮らしを支えているのが地区に唯一ある松本商店だ。店長の松本美津代さん(75)は、町中心部の卸売業者まで迂回路を片道2時間かけて商品を仕入れている。29日にパンなどを買った中村益枝さん(83)は「町の中心部に買い物に行けないので、本当に助かります」と顔をほころばせた。

 “孤立”が続く地区で最も懸念されるのが急病人の発生だ。「脳梗塞や心筋梗塞など一分一秒を争う救急患者が発生した場合、手遅れになりかねない」と落合さん。「患者をあの崩落現場まで運んで救急隊に受け渡すことも可能だが、動かしてはいけない場合、どうすればいいのか」と不安を隠さない。

 県道復旧のめどは立っていない。落合さんと松本さんは「道路がない痛みや不安は、ここに暮らしてみらんと分からん。とにかく一刻も早く通れるようにしてほしい」と口をそろえた。(山口尚久、坂本明彦)