自民提言「ミサイル阻止力」、世界のメディアはどう英訳したか

By Kosuke Takahashi

自民党が7月31日、新たなミサイル防衛に関する政府への提言をまとめた。「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」を政府に求めた。

この「ミサイル阻止力」と略される新たなキーワードを世界のメディアはどう英訳したのか。

まず筆者が東京特派員を務める英軍事週刊誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(JDW)はどう報じたか。

筆者は30日にJDWに、Defence panel within Japan’s ruling party urges Tokyo to acquire capability to strike enemy bases(自民党の防衛小委員会、敵基地攻撃能力の保有を求める)との記事を書いた。

ロンドンにいる英国人のニュース編集者とかなりの議論になったのが、「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力」の英訳部分だ。結局、capabilities to block [intercept]ballistic missiles even in the territory of an opponentとの表現で落ち着いた。「阻止」の部分をblockだけの英訳では分かりにくいとの理由で、intercept(阻止する、迎撃する)との言葉を追記した。

この「阻止」の部分の英訳をめぐっては、ネット上でもさまざまな表現が飛び交っている。

●WSJ「日本、先制攻撃オプションに向かう」

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は31日、Japan Edges Toward Military Pre-Emptive Strike Option(日本、軍事的先制攻撃オプションに向かう)と題した記事を掲載した。

日本政府は、憲法上も国際法上も、日本が「先制攻撃」(pre-emptive strike)や「予防攻撃」(preventive strike)を行うことは認められないとの立場を堅持してきたが、WSJの記事はそれに疑義をはさむ格好となった。

WSJのように海外メディアの中には、敵基地攻撃能力について、敵が攻撃する前に先手を取って攻撃することを意味する「pre-emptive strike」(先制攻撃)の用語を使って報じているところが少なくない。

一方、日本政府は敵基地攻撃については、先制攻撃とは異なるとの見解を示している。敵基地攻撃は、敵が日本に対する武力攻撃に着手したことに対する措置として、防衛出動の発令を前提とし、憲法上許容されているとの立場だ。ただ、この敵基地攻撃が憲法上許されるのは、敵が攻撃に「着手した後」になる。着手前か着手後か、実際の見極めはかなり難しい判断になるだろう。

WSJは、「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力」を the ability to defeat ballistic missiles and other weapons, even in the territory of an opponentと英訳した。「阻止」の部分を、defeat(打ち負かす、無にする)と訳した。

●ロイター、「阻止」をhaltと英訳

ロイター通信は31日、Japan ruling party group proposes strike capability in enemy territory(日本の与党グループ、敵地での攻撃能力保有を提言)との記事を配信した。

前述の「ミサイル阻止力」の部分については、the capability to halt ballistic missile attacks within the territory of our adversariesと英訳している。haltとは「中止させる」との意味だ。

一方、共同通信の英語ニュースは30日、LDP policymakers say Japan should have missile base-striking ability(自民党議員、ミサイル基地攻撃能力保有を求める)との記事を配信した。

「ミサイル阻止力」の部分については、the ability to intercept ballistic missiles and others even in the territory of an opponentと英訳し、interceptとの言葉を用いた。

時事通信の英語ニュースは30日、LDP Seeks Improved Missile Defense Capability in Japan(自民党、ミサイル防衛能力の向上を求める)と報道。「ミサイル阻止力」の部分はthe capability to block ballistic missiles even in enemy territoryと英訳した。

(Text by Takahashi Kosuke)無断転載禁止

© 高橋浩祐