予言獣

 妙に愛嬌(あいきょう)のある顔にうろこの体。肥後国に現れたとされる妖怪「アマビエ」は、新型コロナウイルスが猛威を振るう中、すっかり有名になった▲今さら説明もいらない気もするが、疫病の流行を予言し、自身の姿を描き写して広めるように告げたとされる。今やお守りや和菓子、マグカップなどのグッズが売り出されるほどの人気ぶりだ▲アマビエより前に平戸の沖にも似たような妖怪が出現した伝説があるという。こちらの名前は「姫魚(ひめうお)」。顔がリアルでちょっと怖いが竜宮からの使いとされる▲全国には似たような話がいくつかあり、登場する妖怪たちは「予言獣」と呼ばれる。共通するのは、いずれも江戸時代の話で、姿を描き写すことで疫病から逃れられると信じられていたことだ。病の正体が分からなかった時代のこと、人知を超えた何かにすがるしかなかったのだろう▲翻って、疫病を退散してくれると誰も信じていないであろう現代でも、予言獣がもてはやされているのはなぜなのか。感染拡大を抑えられず社会の混乱が増している今の状況が、江戸時代と似ているのかもしれない▲この百数十年間で医学も科学も飛躍的に進歩した。知恵と経験も積み重ねてきたはずなのに、現状はどうだろう。早く予言獣たちが現れなくてもいい社会にしなければならない。(豊)


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