李登輝氏哀悼、西田哲学との縁伝え かほくの哲学館

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 「哲学への造詣が深い人だった」。7月30日に97歳で死去した台湾の李登輝元総統が2004年12月に来訪した石川県西田幾多郎記念哲学館(かほく市)では、関係者が深く哀悼し、当時を振り返った。李氏の政治思想に影響を与えたとされる西田哲学。館内には、「誠實(せいじつ)」としたためて同館に贈った色紙が再び展示され、住民らにかほくと「台湾民主化の父」の縁を伝えている。

 「とにかく日本語が流ちょうだった。高潔で穏やかそうな印象を受けた」。県西田幾多郎記念哲学館を訪れた李氏について、当時館長の奥野良雄さん(82)=同市宇野気=が記憶をたどった。

 県内を家族旅行していた李氏は当初、宿泊先の和倉温泉から特急に乗り、石川を離れる予定だったが、「西田先生の故郷へ行く」と希望し、哲学館訪問と西田の墓参のため、急きょ、かほく市に立ち寄った。

 同館では、西田哲学の「場所の論理」について大橋良介名誉館長(当時)と対話しながら企画展「禅と西田幾多郎」を見学。西田の直筆原稿や遺墨に見入り、安藤忠雄氏が設計した建物で思索にふけった。

 李氏をもてなした専門員山名田沙智子さんは「奥さまと寄り添い、仲良くささやき合いながら展示を見ていた」と振り返る。山名田さんによると、大橋さんも「政治家でここまで西田哲学を理解している方は珍しい」と驚いていたという。

 李氏から贈られた直筆の色紙は、台湾の団体客が増えたこともあり、館内に飾った後、長らく保管していたが、李氏と地元の関わりを広く知ってもらおうと、館内の喫茶テオリアで再展示することにした。

 李氏は当時、色紙に「誠實」と記した理由を説明していなかった。西田の十代の頃からの親友で、金沢出身の世界的仏教哲学者鈴木大拙は、エッセー「わが友西田幾多郎」で「彼を一言で評すると『誠実』でつきる。彼には詐(いつわ)りとか飾りとかいうものは不思議になかった」と書き残している。

 山名田さんは「西田は自分の気持ちにウソをつけなかった。李氏がこの言葉を大切にしていたのなら、何とも感慨深い」と話した。