制度利用せず 介入に遅れ

第4部 発信なき SOS(6)支援の壁

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買い物を終え、昌代さん(手前)に話しかける高田さん。さまざまな専門職による支援が生活には不可欠だ=6月中旬

 スーパーでカートを押しながら、社会福祉士高田美保(たかだみほ)さん(47)は傍らを歩く小柄な女性に声をかける。「お肉と一緒に炒める野菜も買いましょう」。県央在住、黒木昌代(くろきまさよ)さん(62)=仮名=はうなずき、ゆっくりと店内を巡った。

 昌代さんは統合失調症を抱え、知的能力にも課題がある。糖尿病も患うが、自身では栄養管理が難しい。支援者による買い物の付き添いや調理指導などを通じて、食生活の改善をうながしている。

 同居する30代の長男にも統合失調症がある。2人とも金銭管理が苦手で、成年後見制度を利用。障害者の就労支援施設で働き収入を得ている。

 昌代さんらが社会福祉士やホームヘルパー、訪問看護師などさまざまな専門職による支援を受け始めたのは、2年ほど前だった。高田さんは「もっと早くつながっていてもよかった」と振り返る。

 家族の生活は長年、昌代さんの夫の博文(ひろふみ)さん(仮名)1人が支えていた。2018年に68歳で亡くなる直前まで、支援制度を使うことはなかった。

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 博文さんは庭園管理などの仕事をしながら、40年近く昌代さんや息子と暮らしていた。昌代さんらの障害者手帳を取得しようとした形跡も、特定の支援を受けようとした形跡も見当たらないという。

 制度とつながるきっかけは2018年春、がんで入院中の博文さんが自宅療養を希望したことだった。在宅介護の相談をする中で家族への支援の必要性も表面化したが、当初は自身の死後について長男が昌代さんの面倒を見るなどと話し、介入を拒んでいた。

 一家の存在は、地域の福祉関係者の間ではある程度認知されていた。支援者の一人は「家庭を支えるキーパーソンに『大丈夫』と言われると、それ以上は踏み込めない」と話す。

 高田さん自身も、地域包括支援センター勤務時代に知人の保健師から「将来は絶対関わることになるよ」と言われたことがある。ただ、自ら会いに行くことはなかった。

 「1回くらい様子を見に行っていてもよかったけど、そこまでの危機感はなかった。仕事量が多く『いつか支援が必要かも』という段階では時間が割けない」

 周囲の働きかけにより、博文さんが支援の受け入れを決めたのは、この世を去るわずか1カ月ほど前のことだった。

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 6月中旬、新型コロナウイルスの感染拡大で延期されていた黒木家の支援者による関係者会議が開かれた。障害者施設の職員や訪問看護師、自治体の保健師など9人に昌代さんや長男も交え、約2時間にわたり今後の支援の方向性について話し合った。

 住まいの老朽化や糖尿病の病状、金銭のやりくりなど、抱える課題は少なくない。それでも、地域のさまざまな専門職が連携して手を差し伸べることで、生活は成り立っている。

 「皆さんによくしていただいて、ありがたいです」と昌代さん。それでも高田さんは考えることがある。

 「もっと早めに支援できていれば、自分の力で暮らすための訓練ができた。糖尿病も今ほど悪くならなかったかもしれない」