地域と探る支援の形  第4部 発信なき SOS(7)手掛かり

「SOSの声を自ら上げられない人たちに、医療・福祉・介護専門職の手を届けたい」。こう語るみま~も発起人で、牧田総合病院地域ささえあいセンター長の澤登久雄さん(左)=6月、東京都大田区

 ウェブ上で行われた報告に、全国の医療介護従事者や行政関係者から質問が相次いだ。

 6月下旬に開催された第2回日本在宅医療連合学会大会。千葉県松戸市の医師で同市在宅医療・介護連携支援センター管理責任者の川越正平(かわごえしょうへい)さん(53)が報告したのは、同センターの取り組みの一つ、医師によるアウトリーチだ。

 アウトリーチとは支援が必要な人の元へ出向き、情報提供や必要な措置につなげることを福祉分野では指す。これを医療の現場に落とし込もうという試みだ。

 医療機関の受診や介護・福祉サービスの利用を拒否している人、困難を抱え助けを求める力が欠けた人を、在宅医療の経験がある「地域サポート医」が訪問し、大まかな見立てや今後の支援への助言を行う。

 サポート医の訪問を機に当事者の約9割を医療につなげ、介護サービスの利用や衛生状態の改善も見られた。「家族との関係や地域とのつながりが途絶えていた人も多いが、支援が入れるようになった」。相談は年々増え、昨年度は48件のアウトリーチを実施した。

 行政と連携した対象者の洗い出しも始まっている。医療扶助を6カ月間請求していない生活保護受給者、介護認定の更新が途絶えている高齢者、頻繁に救急車を呼ぶ当事者-。それぞれのデータを分析し、アウトリーチに至るまでのフローができている。

 「全ての関係者が早期覚知のアンテナになることが一番重要。一つの立場で解決しようとせず、その人に必要な施策が横断的に連携し、協調して介入することが大事なんです」と川越さんは言う。

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 東京都大田区の「おおた高齢者見守りネットワーク(みま~も)」は、ユニークな取り組みを展開する。その発想と手法は全国に広がりを見せている。

 高齢者が安心して暮らし続ける街づくりをしようと、みま~もは2008年、同区地域包括支援センター入新井のセンター長だった澤登久雄(さわのぼりひさお)さん(53)が事業者などに呼び掛け発足した。

 特徴は高齢者が元気なときから関係性を築くことだ。健康面や経済的な問題、孤立など将来的に抱えるであろう不安が少ない時期から「つながり」を維持し、適切な時期に専門職が支援する。

 「問題を抱えてからでは、その人を探し出して支援につなげるのは難しい」と澤登さん。取り組むのは地域で気付き、専門職が支援するためのネットワークづくりやセミナーなど。中でも地元の地域包括支援センターに個人情報を登録した65歳以上へキーホルダーを配り、年1回情報を更新することでつながり続けるシステムは好評で、今では大田区の事業にもなっている。

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 小暮一美(こぐれかずみ)さん(76)が、みま~もと関わりを持ってから5年がたつ。

 母親を亡くし1人で暮らすが、みま~もの活動を通じて知り合いが増えた。同世代の友人をはじめ、小学生やその両親、商店の店員もいる。医師や福祉に携わる人とも親しくなった。通りを歩けば声がかかる。「街中が親戚みたい」と小暮さんは笑顔を見せる。

 困難を抱えながらも発せられないSOSをどう拾い上げ、支援につなげていくのか。専門職や地域社会との連携を鍵に模索する二つの団体。その取り組みには、課題に向き合うためのヒントがある。

 (第4部終わり。この連載は健康と社会的処方取材班が担当しました)

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