農水省が警告、中国からの「謎の種」送りつけの目的は? 専門家が分析した

今、アメリカやヨーロッパに謎の種が数多く送り付けられています。ついに、日本にも上陸してきており、農林水産省も注文をしていない種子が海外から送られてきた場合、植物防疫所へ相談するように呼び掛けています。この種が送られる目的については、様々な憶測が飛び交っていますが、主たる目的は詐欺と考えてよいと思います。

その理由は、これまでの詐欺に通じる手口がいくつか見られるからです。


なぜ種なのか?

種を送りつけてきた先は「中国郵政」となっていますが、これは実在する国営企業ではなく偽造されたものだということです。これは、いわゆる「なりすまし」です。ネット詐欺において、大手の銀行や通販サイトの企業名でなりすましメールが送られてくることがありますが、それと同じです。送り先を偽って種を送っていることから、詐欺の可能性は極めて高いといえるでしょう。ネットの場合は、偽サイトに誘導してIDやパスワード、クレジットカード情報を盗みだそうとしますが、この場合は、何が目的なのでしょうか。

それを考える前に、なぜ送るものが種なのか?ということに着目します。

実は、これまでも植物などの種は日本の悪質業者の世界で使われています。

以前、家に自動音声で「アンケートに答えてほしい」と電話がかかってきました。それに答えると商品がもらえるとのこと。そこで住所、名前を教えて回答しました。後日送られてきたのが、種でした。その後、おびただしい数の不動産関連の業者から迷惑な勧誘電話がかかってきて、断るのに大変な苦労をしました。

なぜ、この商品を送ってきたかというと、それはコストがかからないモノだからです。騙しを行う側は徹底したコスト意識を持ち、それでいて大きなリターンを求めようとします。先の業者は、安価な種を送ることで私の個人情報を釣り上げて、マンションや不動産の購入といった大きなリターンを得ようとしてきたわけです。

全世界になぜ種が送られたかといえば、それはコストがかからない商品だからでしょう。これだけの数を送れば、郵送費も相当かかりますが、中身のコストを下げれば、その分、多くの家にモノを送り付けられます。それで、種という安価なものを選んだと考えます。できるだけ低コストで、騙しの大きな利益を生もうとする意図が見え隠れします。

ブラッシング詐欺?

では、私たちをどう騙そうとしているのでしょうか。

アメリカのホワイトハウス警察は、これがブラッシング詐欺の可能性があるとしています。確かにそれもあるかもしれません。商品を大手通販サイトから送る際、それが相手方に受け取られれば、商品購入の感想、いわゆるレビューをサイトに書き込むことができます。受け取った本人になりすまして、良い評価をたくさん書きこむことで、通販サイトへのアクセス増加と売り上げを伸ばせます。それが目的だというのです。

実際に、送られてきた郵送物には、宝石やイヤリングとの記述もあったそうですから、それは考えられます。もし商品を送り付けてきた先が宝石の通販サイトだった場合、そこに「すばらしい本物の商品を安く買えました。ありがとうございます!また購入します」など多数の高評価を書き込めば、それを見た多くの人は、そこで宝石などを購入するでしょう。

しかしながら、購入者が注文しても送られてくる商品は、偽の宝石や今回のように種だったりするかもしれません。あるいは、そもそも商品を送るつもりもなく、クレジットカード情報を抜き取るのが目的の偽サイトの可能性もあります。つまり、種というコストのかからないものを送ることで、購入者から高額な金を騙しとろうとするわけです。信頼できるサイトだと思われるために、謎の種の商品を送った。そうした可能性はあります。

しかし疑問も残ります。ブラッシング詐欺を行うのであれば、これだけ全米やヨーロッパに大量に商品を送る必要はないからです。ある程度の数で、十分なはずだからです。日本にも数多く送られてきています。

可能性1「送り付け商法」

私は送られてきた商品の写真を見て、ある詐欺の可能性が高いと考えます。それは送り付け商法です。

日本でも注文もしていない商品を送り付けて、請求書を入れておき、慌てて電話をかけてきた人を騙して、金を払わせようとします。ただし今回の郵送物には、請求書はないようですが、袋には電話番号が書いてあります。宝石やイヤリングと書いてあって、種が入っていれば、宛先や商品を入れ違えたのかもしれないと思って、心の根の優しい人ほど電話をすることでしょう。

つまり、この番号に電話をかけさせるのが目的の可能性が極めて高いのです。

もし「間違って商品が届いたよ」などと電話をすれば、詐欺師のオペレーターが出て、代金を請求されるかもしれません。袋にはグラム辺り1.5ドルとか、5ドルとか比較的安い値段が書いてあります。電話をした人も強い口調で支払を求められて「その位なら、良いか」と、払ってしまう人もいるでしょう。

数多くの人に商品を送り、少額を詐取する。これは詐欺でよくみられる手口です。

皆さんのところにも「数千万円の遺産を差しあげます」という迷惑メールが送られてきたことがあるかもしれません。それを見て、「嘘つくなよ!」「ありえない」と削除する人がほとんどですが、中には「本当にもらえるかもしれない」と思って、サイトにアクセスしてお金を払う人はいるのです。実は、こうした人が1%いれば良いと詐欺師は考えます。もし100万人にメールをおくって、その1%である1万人がサイトにアクセスして、1000円分をプリペイドカードで払ったとしましょう。そもそもメールを送るのにはお金がかかりませんから、業者は1000万円の儲けとなるのです。
今回の謎の種も同じで、大量に送ってそのなかの何人かがお金を払ってくれればよいという考え方です。全世界の1億人に種を送って、もし1%の100万人が1.5ドル(約150円)を払ったとすれば、1億5千円のお金を手にできます。5ドルであれば、5億円です。大量に送ると郵送費はかかりますが、種という低コストのものを送ることで、充分に儲けを出せるわけです。

可能性2「国際ワン切り詐欺」

もうひとつの可能性として電話をかけさせることで、高額な電話料金を発生させようとすることも考えられます。
国際ワン切り電話をご存じでしょうか?

私のところにも、4月に+1 650の局番で、アメリカ合衆国から着信がありました。折り返してしまうと、海外につながり、自動音声を延々に聞かされて、高額な請求を受けます。この背後には、悪質な海外電話会社がおり、世界じゅうに電話をかけて、相手からの折り返しの電話を待ち、高額な通話代金を取るわけです。

以前に、番組でかけた電話会社はアフリカにあり、30秒で180円でしたので、3分ほどの通話で1000円を超えました。これを全世界に住む人たちの1%が折り返せば、詐欺業者は十分に儲かるのです。これと同じ構図が今回の謎の種の送付にあるような気がしています。

しかも、この電話番号の寿命は極めて短いと思います。国内被害の多い、ハガキやSMSの架空請求詐欺でも、ネット上に電話番号がアップされると、すぐに電話は通じなくなります。おそらく、この電話番号も時間がたつと、すぐに通話不能になると思います。商品が届いてすぐに電話をかける人を狙っている可能性はあるかと思います。

可能性3「個人情報の確認」

3つ目は、個人情報の確認ではないかとも考えます。もし商品を送って戻ってきたら、その住所や電話は生きていない。戻ってこなければ、今も生きている名簿ということになります。現代の詐欺は、名簿をもとにアクションを起こします。摘発された振り込めグループからはいつも大量の名簿が見つかりますが、裏の世界では、こうした住所や氏名、クレジット情報などが付く名簿は高値で売り買いされています。より精密な情報とするために、低コストの種を郵便で送って、住所などを確認して、名簿などを売っている可能性もあるかと思います。

可能性4「ポイント詐欺」

他にも、ひとつ考えられるのは、ポイント詐欺です。
商品が手元に届くと通販サイトなどからポイントが付きますが、そのポイントを騙し取るために、全く知らない人に商品を送り付けることがあります。もちろん、お金を払わなければなりませんが、その際、赤の他人のクレジットカード番号を入力するなどしているかもしれません。お金を引き落とされた人は少額ゆえに気が付かない。実際に商品を送って、ポイントも代金も手に入れる。こんな構図も考えられます。

いずれにしても、謎の種は、「少額を騙し取る」、「名簿の売り買いに使う」といった詐欺が主たる目的であると考えます。種が送られてきた人はすでに名簿が洩れているので、今後の詐欺には要注意ということになります。

種を送ることで、国際的な詐欺師たちが、世界中に金の成る木を生やそうとしているのかもしれません。

© 株式会社マネーフォワード