来年で発売20周年、アンドリューW.K.のデビュー作を振り返る

2001年、デビュー・アルバム『I Get Wet (アイ・ゲット・ウェット〜パーティー・一直線!) 』でアンドリューW.K.が突如音楽シーンに現れると、真面目腐った音楽ファンや批評家は眉をひそめた。「歳を取ったから楽しめなくなるんじゃない、楽しむのをやめるから年を取るのだ」 ―― この言葉がこれ以上にしっくりくる例はちょっと思い浮かばない。

2001年はニュー・メタルが放送電波を席巻し、音楽シーンを一変させた年だった。リンプ・ビズキットは前年の『Chocolate Starfish And The Hot Dog Flavored Water』のリリース以来、波に乗り続けていた。同作は後にプラチナ・ディスクの6度分の売上を記録している。リンキン・パークのアルバム『Hybrid Theory』もその1年前のリリースで、アメリカだけで500万枚近くを売り上げていた。8月にリリースされたスリップノットの『IOWA』はイギリスのアルバム・チャートで首位を獲得し、その1週間後にはシステム・オブ・ア・ダウンの『Toxicity』がアメリカのアルバム・チャートで1位になった。また、『White Pony』をリリースしたデフトーンズや『Issues』をリリースしたKORNもキャリアの全盛を迎えていた。ニュー・メタルに共通する特徴が、苦痛や疎外感を扱った不安を伴う歌詞にあるとすると、アンドリューW.K.の作品はそれとは大きくかけ離れたものだった。

快楽主義的でバカバカしく愉快

幾重にもなったギターの渦の中で、アンドリューW.K.は快楽主義的でバカバカしく愉快なロックを作り出した。それは早速オープニング・トラック「It’s Time to Party」から始まり、3曲目の「Girls Own Love」は新世紀のモトリー・クルーといえるサウンドで、その軽薄さや騒がしさはストリッパーのことを歌ったモトリー・クルーのロック・アンセム「Girls Girls Girls」を想起させるが、モトリーのような度を超した女性蔑視的な傾向は感じられない。 

実は、アンドリューはデビュー・アルバムのサウンドとは違ったもっと高潔なところから影響を受けている。USAフォー・アフリカによる1980年代のチャリティ・シングル「We Are The World」のパワフルなヴォーカルのアンサンブルに感銘を受けたカリフォルニア出身のアンドリューW.K.は、パンクやメタルの要素を取り込んだオルタナ・ロックを作り始めた。初期のデモがデイヴ・グロールの目に留まり、彼はフー・ファイターズのオープニング・アクトに起用される。そしてそのデモ音源を聴いたアイランド・レコードの担当者もライヴに足を運び、会場全体を巻き込んだアンドリューW.K.のクセになるパフォーマンスを見て契約を決めた。

 

パーティーのサウンドトラック

アルバム『I Get Wet』はアンドリューW.K.流のパーティーのサウンドトラックであり、荒々しく、過激で容赦ないパーティーだ。リフの応酬や激しいシンセのサウンドに溢れたこのアルバムに、繊細さや音楽のニュアンスは存在しない。創造性や洗練された音楽性、卓越した演奏技術を期待するのは間違いだ。そこは一次元の世界で、その次元とはパーティー・ゾーンだ。これがうるさいと感じるなら、あなたはもう若くないということだ。

実際、アンドリューW.K.はミュージシャンたちが集まって作ったサウンドではなく、曲自体が楽器のように聴こえるようなアプローチを好んでいる。「Ready to Die」や「Take It Off」はアップビートなノイズが爆撃のように激しく、「I Love NYC」は自身の新たな拠点に捧げた楽曲だ。おもちゃの楽器を想起させる「She Is Beautiful」のプリミティヴなイントロにも何か特別なものがある。純真な心や人生がまだ単純だったころを思い出させるのだ。だがアンドリューW.K.の人生こそ単純だ。彼の使命は曲名にもなっている通り”Party til You Puke (吐くまでパーティー) ”の精神を貫き続けることだ。もっとも、きっと死ぬまでそれは変わらないだろう。

 

あなたは既に死んでいるのかもしれない

2001年11月12日にリリースされた『I Get Wet』はイギリス、アメリカ、それぞれのアルバム・チャートでそれぞれ71位と84位に終わり、商業的に十分な成功を収めるには至らなかった。しかしながら、そこに収録されていた楽曲はそこかしこで流れていた。特に「Party Hard」や「It’s Time to Party」、「Fun Night」はテレビや映画、ゲーム、CMでよく使われるようになった(「Party Hard」はホッケー・チームのピッツバーグ・ペンギンズの公式アンセムに認定されている)。

現在、アンドリューW.K.はモチベーショナル・スピーカー(やる気にさせたり鼓舞させたりすること専門家)としても活躍しているが、『I Get Wet』にも啓発的な効果がある。そして、もしポジティブな「Got To Do It」を聴いても、仕事を辞めてアンドリューW.K.のパーティー特急に乗りたい!と思えなかったら、あなたは老いているどころか、既に死んでいるのかもしれない。

Written By Caren Gibson

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