熊本県南豪雨リポート 明日へつなぐために。(2)

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■避難は最大の防災なり
総務課防災担当 荒木龍二(りゅうじ)(46・野中田3)
大きな被害をもたらした未曽有の豪雨。災害を事実だけで終わらせない。
次に起こる想定外を乗り越えるために。私たちがすべきこととは――

▽人の力ではどうしようもない
本町が初めて発令した避難指示。避難勧告や避難指示を出すときの警戒レベルは通常4相当。だが今回は一段階引き上げた。それだけ危険な状態だったからだ。総務課で防災を担当する荒木龍二主幹は「人口規模でみれば避難した人の数は少なくなかった。しかし『避難指示』は重大な危険がそこまで迫っている状況。もっと多くの人に危機を感じてもらいたいという思いがある」と振り返りながら住民に気を配る。『こんなに被害が出るとは思っていなかった。だけど降り方がいつもと違うことは分かっていた』と多くの住民が同じように口を開く。その理由は人間の特性にある。自分にとって都合の悪い情報を無視したり、非常時でも根拠なく大丈夫だと判断し、平時と同じような行動を選んだりする『正常性バイアス』という心理が原因。荒木主幹は「自らの考えだけでなく私たちが発令する避難情報を客観的な判断材料にしてほしい。土砂崩れや川のはん濫は起きてしまったら人の力ではどうすることもできない。だからこそ避難が最大の防災になる」と避難の重要性を語る。

▽臆病になるべし
特に夜は視覚的な情報が入らず状況がつかみにくい。土砂崩れが発生する前には土臭さがあるとも言われるが、そのとき冷静にかぎ分けられる状態でいられるとは限らない。土砂災害警戒情報は数時間後に地域で土砂崩れが起きる可能性を予想して発令されるもの。山間部、水路沿いに住んでいる人は発令された時点で避難することをおすすめする。「毎年のように観測記録を更新する雨が降っていて、これまでの経験はまったく通用しない。臆病になって判断することが大事。家族のことなど自分の守るものを思い浮かべると早めの行動をとろうという気持ちが強くなる」。早めの判断は命を救うカギだ。

▽土のうは梅雨入り前に『自分』で
水害時には消防団の力が欠かせない。今回、ほぼすべての団員が出動し避難の補助や呼びかけ、危険な場所の立ち入り封鎖などを夜通しで遂行した。町内に置いた土のう約4200個もほとんどが団員と役場職員が作ったものだ。公的な機関は命の危険が差し迫った場所から順に対応する。「役場や消防団を最大限に活用しても豪雨災害のすべてには対応しきれなかった」と主幹が話すように『敷地内に水が入ってきたからどうにかしてほしい』と連絡を入れても、いつ手が回るかは分からない。水路沿いに住む人などは梅雨入り前に自分で土のうを作っておくことや普段からすぐに動かせる向きに車を止めること、雨具など必要なものを事前に備えておくことが必要だ。
避難は安全な場所に行くことが第一。雨での避難は他の災害と比べて短い時間で済むことが多い。新型コロナウイルス感染予防の観点から避難所の駐車場などでの車中泊も選択肢に入れる。LEDライトや目隠しになるタオル、小さく収納できるマットレスもあると良い。段差をなくすための工夫があれば横になったときに快適だ。長時間じっとしていて急に立ち上がったときに発生しやすい『エコノミークラス症候群』を避けるためにも水分補給や適度に足を動かすことを忘れずに。冠水した道路も多数あるため避難経路も改めて確認してほしい。

▽自分を守れば他人が守られる
「行政にできるのは住民が避難できる場所を確保すること、そして避難情報を伝えること。もし逃げ遅れた人がいれば、助けに行く人も命の危険にさらしてしまう。自分を守ることで他人が守られることをどうか心に留めておいてほしい」。尊い命を一つでもなくさないために、主幹は念を押す。

■町民の声 普段から地域と人を知っておく
区長会長 柳瀬鐵男(てつお)さん(77・瀬戸口)
午前6時から自主防災組織の班長と地区を見回りました。支援が必要な人の家を優先的に回り「何かあったら連絡してください」と声をかけていきました。現場の混乱を避けるため、避難するときも必ず連絡を入れてもらうように伝えています。水の怖さを目の当たりにしたのは今回が初めて。今まで湯前は大きな災害が少なかった分、住民にも油断がありました。道具だけでなく、大事なのは人。普段から近所の人の様子や山からの水の流れ方などを見たり、地域をよく知る高齢者から地形や溝の位置を聞いたり、普段から人と地域を知ることが大切だと思います。地元の消防団員が土のうを各家庭に置くなど率先して動いてくれたおかげで被害が抑えられました。感謝しかありません。

■VOICE 地域の人を助けたい一心で
消防団員 N.Sさん(31・上染田)
午前5時に自宅近くの都川の水位が橋まであと1メートルでした。川向かいの道は冠水し、近くの家の車庫にも浸水していたので、避難するように呼びかけました。その後、上染田全世帯に避難指示が出たので団員二人で全戸を回り、他の団員は2分団管轄地区の状況を見て土のうを置きました。午後からは個人宅の泥のかき出しやごみの処分をしました。「ありがとう、ごめんね」という言葉をかけてもらいました。次の日は今後に備えて土のうをつくりました。動いている間は必死で考える余裕はなかったのですが、休憩中は自宅がどうなるのか不安もありました。一人暮らしの私は家が被災しても自分の命を守ればいいので、自宅をどうにかすることよりも地域の人たちを助けたいという気持ちで動きました。