復活V

 千秋楽の一番、難敵を下して勝ち名乗りを受けながら、国技館の天井をじっと見上げる視線が印象的だった。5年前に幕内最高優勝を果たした時の顕彰額を見ていたのだという。大相撲7月場所で見事な優勝を飾った照ノ富士関▲恵まれた体格を生かした豪快な取り口で2015年、大関に昇進した。初土俵から25場所、新三役からわずか2場所のスピード出世だった。直後のイベントで、どんな大関になりたいか、と問われて「どんな大関、ではなく、上を目指している」。自他共に認める横綱候補だった▲ところが、その後は膝の故障や病に泣き、2年余りで大関から陥落。その後も満足に相撲が取れず、1年前の3月には下から2番目の「序二段」まで番付が下がった▲上位に定着できず、番付が上昇と下降を繰り返す力士が「エレベーター」なら、彼の場合は、まるでバンジージャンプや絶叫マシンのような急降下だ▲そこから傷を癒やし、病と闘ってたどり着いた幕尻の復活V。インタビューの「勇気と我慢を伝えたい、と」の言葉が今の私たちにはずしりと響く▲ところで、優勝の瞬間の温かい拍手を聞きながら、大歓声と共に座布団が舞う日はいつか戻ってくるだろうか-と考えた。決して上等な祝福表現でないことは確かだが、少し寂しい気もして。(智)

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